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「三陸津波」と集落再編―ポスト近代復興に向けて [著]岡村健太郎

[評者]五十嵐太郎(建築批評家・東北大学教授)

[掲載]2017年03月26日

[ジャンル]社会

表紙画像

■「理想村」に学ぶ未来への発想

 3・11の衝撃によって日本は大きく変わると思われていた。が、結局、従前のシステムは変わらず、縦割り行政によらない、統合された街の計画やコミュニティーがつくられるよりも、巨大な防潮堤ばかりが目立つ風景が出現した。被災地にバラックもほとんど出現せず、仮設住宅の供給を待つばかりだった。
 本書によれば、昭和三陸津波後に復興した岩手県大槌町の吉里吉里(きりきり)集落は「理想村」と呼ばれていた。寒村が独立宣言する井上ひさしの小説『吉里吉里人』でモデルになった集落だ。ここでは産業組合が主体となり、低利資金の窓口、建材や日用品の共同購入、共同浴場や水道の経営、共同製作所の商品販売を担当し、高所移転のインフラ整備と産業復興の社会政策を含む、総合的な復興が行われた。また中央政府が一律の計画を押し付けず、地域の事情に対応した柔軟な事業だった。こうした過去の事例から未来のヒントを読みとるのが、本書の目的である。
 津波常襲地帯でありながら、東北復興の歴史をまとめた本は多くない。本書は、江戸時代は被災した藩が自ら復興を担ったのに対し、国家が関与していく明治以降の「近代復興」を扱い、統治機構の変化もあぶりだす。どんな法律や財源が整備されたか丹念に調べ、社会背景と行政の役割を軸に切り込む。明治三陸津波では地方政府、篤志家、地主層の活躍、潤沢な義捐金、昭和三陸津波では事業のメニュー化、農山漁村経済更生運動で発展した産業組合を特徴とみなし、チリ地震津波ではトップダウンのインフラ整備が確立したという。
 ならば、地方分権や人口減少の新しい状況下で発生した東日本大震災に、近代復興の枠組みを使うのはズレていないか? 著者が唱えるポスト近代復興とは、NPOやNGOが活動し主体をとり戻した地域、計画を過大にしない地方政府、行政評価できる中央政府の三者が、相互に補完しつつ緊張感を伴う関係だ。
    ◇
 おかむら・けんたろう 81年生まれ。建築史、災害史。東京大学生産技術研究所助教。共著に『災害に学ぶ』など。

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