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縄文の思想 [著]瀬川拓郎

[評者]宮田珠己(エッセイスト)

[掲載]2018年01月07日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■神話と考古学を手がかりに分析

 縄文人は何を考えていたのだろう。たとえば夜空に浮かぶ星を何だと思っていたのか、死ぬとどうなると思っていたのか。どんなふうに恋をして、何を目標に生きていたのか。
 かなうなら、彼らが見ていた世界を彼らと同じように見てみたい。本書はそんな不可能とも思えるテーマに挑む知的冒険の書だ。
 著者は、昭和30年代ごろまで瀬戸内海や西九州で多くみられた家船(えぶね)漁民と、アイヌや南島といった周縁の人々の間に残る神話や伝説に、同じモチーフが多く見られることに注目する。関係がないようにみえる彼らに、なぜ共通する神話があるのか。それらは遠く縄文の時代から受け継がれてきたものではないのか。
 そして海の神が山の女神のもとを往還する神話を縄文起源のものと推理し、さまざまな分野の先行研究を動員し立証していくのだ。文字などの証拠が残っていないだけに、考古学には遺跡や遺物を自分の説に沿って解釈してしまう危険がつきまとうが、著者の分析は多層的で説得力を感じた。
 本書によれば、縄文人は、高山を祖霊の世界との境界と考え、人々は死ぬと海岸沿いにある洞窟から山に登ると考えていたという。また魚や獣は神からの贈りものであるとし、手厚い儀礼やお土産の返礼でそれにこたえていたことや、分配と平等を重視する平和的共同体をつくる一方で、外部に対しては無法で暴力的な性格を持っていたこと、平等重視といっても、才能や野心ある若者を排除する、いわば出る杭は打たれるタイプの平等だったことなども指摘する。
 こうした縄文の精神は、弥生時代以降も周縁の人々に受け継がれ、呪術や芸能などを通じて日本社会に影響を及ぼし続けたという。
 出る杭は打たれるなんて、そんなことまでわかることに驚いた。遠い存在だった縄文人が身近に感じられ、彼らの頭の中を知りたいという思いがますます強くなった。
    ◇
 せがわ・たくろう 58年生まれ。考古学者、アイヌ研究者。旭川市博物館館長。著書に『アイヌの歴史』など。

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