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デジタルエコノミーはいかにして道を誤るか―労働力余剰と人類の富 [著]ライアン・エイヴェント

[評者]加藤出 (東短リサーチチーフエコノミスト)

[掲載]2018年01月14日

[ジャンル]社会

表紙画像

■産業革命と比べながら考える

 IT(情報技術)の進展によるデジタル革命は多くの人々を失業させ、激しい格差社会を招くのではないか?という悲観論が近年、世界的に高まっている。
 一方でIT業界に多い楽観主義者は、技術の進歩は新たな仕事を生むので心配ないと言っている。百家争鳴の中、本書はこの今日的な論争に多数の興味深い視点を提供してくれる。
 著者は産業革命とデジタル革命の類似点と相違点を指摘する。産業革命の際、無数の手工業の職人が失職した。今後の米国では自動運転で約500万人が仕事を失うという。大学ではオンライン講座で数十万の教師が失業する可能性がある。
 しかし、「大きなテクノロジー革命はふつう、破壊をもたらすとともに多大な恩恵も生み出すことはぜひ覚えておきたい」。新技術の利用に社会がなじむまで時間がかかるため大きな時差が生じたが、産業革命は結果的に大多数の人々の生活水準を劇的に向上させた。
 デジタル革命も時差を伴いつつ「人類に多大な恩恵をもたらす」と著者は見ている。しかし、今回は違う面もあるという。
 社会の変化が速く、転職を迫られる人が急増すると再教育は容易ではなくなる。しかも、自動化、グローバル化、スキルの高い少人数の生産性向上が労働力の余剰を発生させるため、「失業した労働者のほとんど」は「低スキルの仕事の奪い合いに追いやられる」。よって「困難を極める経済の混迷期が非常に長く続く可能性がある」と懸念されている。それは政治体制をも揺るがすリスクがあるという。
 ただし、教育の効果については本書は悲観的過ぎるように思われる。高スキル人材を多数育成しても、それに見合う仕事の賃金が下落するだけだという。
 教育制度の改革によって新時代に適応できる若い人材が厚くなれば、相乗効果で新たなイノベーションが生まれることもある、と評者は信じたい。
    ◇
 Ryan Avent 英「エコノミスト」誌シニア・エディター兼経済コラムニスト。

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