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戦争調査会―幻の政府文書を読み解く [著]井上寿一

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2018年01月21日

[ジャンル]歴史 政治

表紙画像

■資料に語らしめる敗戦の原因

 日本はなぜ対米英蘭戦争に突入したのか、国策はいつどの段階で誤ったのか。太平洋戦争の敗戦後、東久邇宮内閣に続いて首相に就任した幣原喜重郎は、自らの内閣でこの解明を行うことが歴史的使命だと考えた。その情熱が閣議でも了承され、「敗戦の原因及実相調査の件」が具体的な形を取ることになる。
 これが「大東亜戦争調査会」であった。長官には庶民金庫理事長の青木得三が就く。五つの部会、委員20人余で発足し、この戦争の原因究明に動き出す。この調査会の調査内容はこれまであまり知られていない。というのは調査を始めてほぼ1年、対日理事会で、英国、ソ連などから一部の部会のメンバーには軍事指導者が入っているではないか、との強硬な意見がでて、つまるところ解散になったからだ。
 しかし、この間の議事録や証言録、収集した資料(全15巻)は残っている。著者は改めてこの記録を検証、分析することによって、歴史の教訓を現代に生かすべきだと主張する。第二部会の委員だった中村孝也・元東京帝大教授(日本史)の「山中に入って山を見ずで、今われわれは山の中にいるから、全貌(ぜんぼう)を見られない」と戦争に至る全体像の解明には時間が必要との言を引き、「当時から約七〇年を経た今こそ」これらの資料や記録を用いて太平洋戦争史を描くべきだと促す。
 著者は資料を用いて、個々の史実を語りつつ、あの戦争では文官側の発想、智恵(ちえ)、それに識見はほとんど生かされなかったことを浮かびあがらせる。戦争の遠因は明治維新、いや日露戦争、第1次大戦……という論の広がりが参考になる。解説もわかりやすい。
 調査は五カ年計画と考えていた青木は、解散後も民間でひとり意欲を燃やし、収集した記録、証言で『太平洋戦争前史』(全6巻)を著した。戦争調査会の資料に語らしめる歴史を、今注目する必要がある。
    ◇
 いのうえ・としかず 56年生まれ。学習院大学長。専攻は日本政治外交史。著書『危機のなかの協調外交』など。

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