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化学者たちの京都学派―喜多源逸と日本の化学 [著]古川安

[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)

[掲載]2018年01月21日

[ジャンル]教育

表紙画像

 一般に京都学派といえば、西田幾多郎を筆頭とする哲学・人文科学の学問的系譜を想(おも)い起こす。しかし、化学にも京都学派があったのだ。本書は、その創始者たる喜多源逸(げんいつ)を起点に、ノーベル賞受賞者の福井謙一、野依良治に至るまで、日本の化学の第一線で活躍した錚々(そうそう)たる研究者の知的系譜を明らかにした作品である。
 工業化学という応用分野を担当していた喜多が浸透させたのが、基礎重視、理論重視であった。理学部ではなく、工学部燃料化学科というきわめて応用的な分野に属していた福井が、量子化学の研究に進み、フロンティア軌道理論を生み出したのも、そうした京都学派の伝統ゆえであった。
 学生を縛らず自由に研究させ、独創性を重んじて物事の本質を見極めさせる知的風土の中で、福井が、経験・実験偏重だった化学を数学化・理論化する知的革命を成し遂げた事実は、現代の学問的営為にも示唆するところがきわめて大きい。

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