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ルポ川崎 [著]磯部涼

[評者]市田隆(本社編集委員)

[掲載]2018年01月28日

[ジャンル]社会

表紙画像

■街の陰を追って見えた希望の光

 著者が月刊誌の連載で、川崎市南部の元不良少年たちを中心にしたルポルタージュを書くきっかけは、2015年2月に川崎市の多摩川河川敷で中学1年の少年が殺害された事件だった。「川崎の街を舞台として、現代の日本が隠蔽(いんぺい)する問題を描けないかと構想した」という。
 この地に生きる人々へのインタビューを重ねて、事件の背景にあった、根深い貧困や暴力の問題が今なお残ることを描き出す。しかし、読み進めると、街の陰惨な印象が後退し、若き才能の輝きや、地元への愛が生む希望の光が強くなっていく様に驚かされた。
 登場人物たちの中で最もページが割かれているのがラップグループ「BAD HOP」。川崎では名が通ったワルだった元不良少年たちが結成し、その音楽的才能が広く認められた。彼らは貧しい家庭に育ち、中学時代から暴力団につながる上納金を先輩に支払っていたという。川崎での過酷な生活をラップで表現し、「ひどい環境から抜け出す」ことが出来た。この地で「どこに行っても彼らにあこがれた子どもたちがラップをしている」といい、確かな根っこを持つ音楽の力強さが伝わってくる。
 川崎の工場地帯に近い街では在日コリアンが多く住み、フィリピンやブラジルからの転入者も増えた。日本になじめない少年少女が地元の暴力団に取り込まれた事例も相次いだという。
 だが、この流れに抗して、様々な国出身の若者たちが集う音楽フェスの開催に奔走するメンバーがいる。また、この街を標的にしたヘイト・デモに対して住民が抗議に立ち上がり、この出来事が皮肉にも「地元に対する愛着」を育むことになった。あらゆる人々を受け入れてきた多文化地域の底力と独自の進化を感じさせるエピソードだ。
 街の陰をたどることで光にたどりついた本書は、街を一歩きしただけでは見えにくい、川崎の新たな魅力を表すことができた。
    ◇
 いそべ・りょう 78年生まれ。音楽ライター。著書に『ヒーローはいつだって君をがっかりさせる』など。

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