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閻連科「硬きこと水のごとし」書評 文革をありのまま伝える覚悟

評者: 円城塔 / 朝⽇新聞掲載:2018年02月18日
硬きこと水のごとし 著者:閻連科 出版社:河出書房新社 ジャンル:小説・文学

ISBN: 9784309207360
発売⽇: 2017/12/26
サイズ: 20cm/355p

硬きこと水のごとし [著]閻連科

発禁処分や過激とされる表現がとりあげられることの多い閻連科だが、作家というものは基本的にどんな文章でも書ける。『年月日』のような神話的雰囲気を帯びた話や、『父を想(おも)う』のようなしみじみとしたエッセイだって当然書ける。
 だからもちろん、当局に確実に目をつけられるような小説を書き続けているのは、わざとなのであり、そうしなければならない必要に迫られてである。
 閻連科の作品の多くは、地方における文化大革命の影響とその担い手たちを扱う。現代中国の若者たちからしても遠くなってしまったその時代の姿をごろりと放りだす。
 文章や行間には常に笑いがあふれているが、どこか、本当のことを語っているのに笑い話としか受け取ってもらえない者のかなしみのようなものが漂うことも確かである。
 マジック・リアリズム的書き手とされることもあるのだが、魔術的な手法でなければ伝えられない現実というよりも、どう語っても嘘にしか聞こえない現実を伝えようとしているという方が適切なのではないか。
 本作の舞台は、まだ文革の嵐が届かない地方の貧村。その地で革命の理念に目覚めたひと組の男女が、守旧派と戦いながら実権を握っていくことになるのだが、おたがいの顔を知り尽くした村での話であるから、闘争だって、親を連れてきての泣き落としになったりし、当の(それぞれ配偶者のいる)男女二人も、地下に長いトンネルを掘って逢瀬(おうせ)を重ねたりする。
 のちの作品にくらべるとおとなしくみえる本作だが、これがおとなしいと思えるのは、閻連科がその後、『愉楽』や『炸裂志(さくれつし)』で切り開いた道を知っているからである。
 過去をありのままに伝えようとすることは本来、それだけで過激な行為となりうる。
 我が身を振り返り、それだけの文学的覚悟があるかを問いかけてみる。ない。
    ◇
 えん・れんか 58年生まれ。中国の作家。原書は01年刊行。著書に『丁庄の夢』など。14年フランツ・カフカ賞受賞。