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告白―あるPKO隊員の死・23年目の真実 [著]旗手啓介

[評者]市田隆(本社編集委員)

[掲載]2018年02月18日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■矛盾に満ちた過酷な現場に迫る

 カンボジアのPKO(国連平和維持活動)に日本文民警察隊として派遣された岡山県警の高田晴行警部補(当時)が1993年に武装勢力の銃撃で死亡した事件を中心に、NHKの番組スタッフがこのPKOの真相を追及。2016年放送のドキュメンタリー取材をもとに書き下ろした。
 当時の国論を二分したPKO派遣問題で注目された自衛隊の陰で、全国から選抜された日本の警察官75人の文民警察隊はひっそりと現地入りし、内戦後のカンボジア各地に配置された。現地の治安が日を追うごとに悪化する中で、高田さんの殺害事件は起きた。
 番組スタッフは、この23年後に元隊長から記録の提供を受けたことをきっかけに検証取材を開始。現地での体験について沈黙を守っていた元隊員たちが、「歴史に埋もれさせてはならない」と重い口を開いた。元隊員たちの証言や手記、ビデオの映像記録を広く集めた結果、命の危険にさらされた当時の過酷な状況が明らかになり、個々の事実が言葉を失うほどの説得力をもって読者に迫ってくる。
 取材の積み重ねは、PKOの前提だった停戦合意が事実上破綻(はたん)し、再び内戦状態に突入していたことも浮き彫りにしている。当時、UNTAC(国連カンボジア暫定統治機構)、日本政府ともそれを認めず、派遣要員の撤収はないとの立場に終始した。PKOの矛盾に満ちた舞台裏を明らかにした価値は大きい。
 高田さん殺害はポル・ポト派の犯行の疑いが強いが「いまなお『犯人』は特定されていない」し、事件後の究明・検証もなかった。本書の「これまでのメディアの無為を恥じた」との言葉は私にも重く響いた。
 日本の悲願だった人的な国際貢献という旗印のもとに現場隊員が苦しみ、犠牲者まで出した。今後、安保法制が新たな旗印になる場合、この事実を無視して先に進むことはできないだろう。それを世に知らしめた、意義ある一冊だ。
    ◇
 はたて・けいすけ 79年生まれ。NHKディレクター。報道局社会番組部などを経て15年から大阪局報道部。

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