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貧困の戦後史―貧困の「かたち」はどう変わったのか [著]岩田正美

[評者]斎藤美奈子(文芸評論家)

[掲載]2018年02月25日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■「社会の病巣」と目をそむけるな

 ちょっと反省した。日本の貧困について、私は何を見ていたのだろう、と。
 もしかしてあなたも思ってません? 戦後の貧困は復興期から高度経済成長期へと進む中で減少し、バブル崩壊後に増加に転じ、ついに一億総中流社会から格差社会に転落した……。
 いやいやいや、貧困はいつもすぐそこに、目に見えるかたちで存在していたのだ。多数の資料とともに本書がたどるのはそうした貧困の「かたち」である。
 敗戦直後、最底辺にいたのは焼け跡の「壕舎(ごうしゃ)」で暮らす人々、復員兵を含む身寄りも住まいもない「引揚者(ひきあげしゃ)」、地下道などで寝起きする戦災孤児などの「浮浪児・浮浪者」だった。
 1950年代の復興期には失業者が急増。職安が斡旋(あっせん)する日雇い労働者(ニコヨン)が増え、また仮小屋(バラック)が集まった地区は廃品回収業を意味する「バタヤ部落」と呼ばれた。60年代の高度成長期には臨時雇いの労働者が集まる「寄せ場」と「ドヤ街」が発展するが、「バタヤ部落」や「寄せ場」はやがてスラムと見なされ「改良」の対象にされていく。
 行政の貧困対策を俯瞰(ふかん)すると「要するに社会の病巣と見ていたわけね」ってことがよーくわかる。彼らを貧困に追いやった原因は、戦争だったり経済の変動だったり政策の転換だったりした。にもかかわらず〈貧困はつねに自らの個人的な努力で対処すべきもの〉とされ、〈衛生や治安の観点からのみ問題にされ〉た。
 職と住居を失った貧困の今日的な「かたち」は中高年の「ホームレス」や若年層の「ネットカフェ難民」だろう。現在の「ホームレス自立支援法」にも著者は異議を唱える。〈「自立」支援という政策目標は、個人の怠惰が貧困を生むという、きわめて古典的な理解に基づいている。だが問題は、怠惰ではないのだ〉
 東京五輪を前に、またもや進む排除の論理。現実から目をそむける政治家やお役人に読ませたい。
    ◇
 いわた・まさみ 47年生まれ。日本女子大名誉教授(社会福祉学)。著書に『現代の貧困』『社会福祉のトポス』。

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