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炎と怒り トランプ政権の内幕 [著]マイケル・ウォルフ

[評者]立野純二(本社論説主幹代理)

[掲載]2018年03月04日

[ジャンル]社会 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■生々しい内情に潜む真の危うさ
 
 為政者にとって、メディアに自画像をどう描かせるかは死活的な問題だ。とりわけ、トランプ米大統領は異形の存在である。政策よりも、見栄えが政治そのものだからだ。そのせいか、メディアへの敵視と偏愛が奇妙に同居している。
 寝室で3台のテレビを見つめる日々を送り、バスローブ姿で歩き回るとの報道に激高する。「フェイク」と報道機関をけなす一方、マードック氏らメディア界の大物を敬う。
 本書は、そんなトランプ氏の人間像と政権の混沌(こんとん)を衝撃のディテールで描いた話題作である。
 横紙破りの大統領令や、FBI長官の解任。折々の決断の裏に、家族、側近バノン氏、共和党の3陣営による確執があったのは有名な話だが、本書の凄(すご)みは関係者の会話や言葉の生々しさにある。虚実ない交ぜのドラマ風の筆致も加わり、ホワイトハウスという統治の象徴が安っぽいリアリティー番組の舞台に成り果てたことに驚愕(きょうがく)する。
 ただ、本書は労作ではあるが、政権全体を捉えたわけではない。ケリー首席補佐官、ティラーソン国務長官、マティス国防長官ら、実質的に政策を操るプロ集団の姿は見えてこない。
 思えば、トランプ現象とは既成政治の破壊であると同時に、政治ニュースの大衆化でもあった。畏怖(いふ)すべき権力の中枢に棲(す)み始めた珍獣を見るような目線を、この著者を含む多くのメディアは共有している。
 その期待に応える過激な言動で、トランプ氏は常に衆目を集めることに成功している。話題の清濁を問わず、「視聴率こそ政治力」と信じるナルシスト政治家としては上出来だろう。
 その陰で、語られなくなった米外交の歪(ゆが)みや世界秩序の変動がいかに大きく、危ういことか。大国の堕(お)ちた偶像といえども、いまだに核のボタンを預かる最高司令官に変わりはない。
 メディアが見据えるべき本質は何か。それを改めて考えさせる書でもある。
    ◇
 Michael Wolff 米国のジャーナリスト。USAトゥデー紙や英ガーディアン紙などに寄稿。

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