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ヒトごろし [著]京極夏彦

[評者]末國善己(文芸評論家)

[掲載]2018年03月04日

[ジャンル]歴史 文芸

表紙画像

■思わぬ形で新選組を読み替え
 
 京極夏彦が新選組に挑んだ本書は、“鬼の副長”の異名を持つ土方歳三を人外(にんがい)のモノとして描いている。
 といっても、本書はホラーではない。7歳の時、密通した武家の妻が斬殺されるのを目撃し魅了された歳三は、刀で人を殺すという人倫にもとる衝動に取り憑(つ)かれたとされているのだ。
 だが人斬りが許されているのは武士だけで、農民の歳三は刀の所持も認められていなかった。この現状に不満を持つ歳三は、幕末の混乱を利用し、どれだけ刀で人を斬っても罪に問われない新選組を作り上げる。
 歳三は、上に立ちたいという欲望が強い近藤勇、相手をいたぶって殺す快楽殺人者の沖田総司、物事を思い通りに動かすことを好む山崎丞(すすむ)ら、いずれ劣らぬ人外のモノの隊士を手駒にして次々と暗殺を実行する。
 芹沢鴨の粛清、池田屋事件、御陵衛士(ごりょうえじ)の謀殺など、新選組がかかわった事件が思わぬ形に読み替えられていくだけに、歴史に詳しいほど衝撃も大きいはずだ。
 効率的に人を殺す新選組を作った歳三に着目し、人を殺したい歳三と殺されたいとの欲望を抱く女・涼(りょう)の歪(ゆが)んだ関係も物語を牽引(けんいん)する本書は、歳三の組織運営の手腕を描き、歳三と恋人お雪の恋も印象深い司馬遼太郎の名作『燃えよ剣』へのオマージュだろう。
 司馬は、隊士を適材適所に配置し確実に任務を達成する歳三を、高度経済成長期の企業経営者に重ねた。これに対し、自分の欲望を満足させるのが第一の歳三が、目的のために隊士を平然と使い捨てる本書は、現代の労使関係のカリカチュアといえるかもしれない。
 戊辰戦争が始まると、大砲が何十人もの兵士を殺戮(さつりく)するようになる。人斬りにこだわる歳三は、こうした戦闘を「穢(きたな)い」と感じ、実際に人を殺したがゆえに、兵器の高性能化が人殺しの禁忌を無効化している現実にも気付く。ここには、なぜ戦争は愚かしいのか、なぜ人殺しは悪とされるのかをめぐる深い思索がある。
    ◇
 きょうごく・なつひこ 63年生まれ。作家。『姑獲鳥(うぶめ)の夏』『後巷説百物語』など。新刊に『虚談』。

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