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電力と政治―日本の原子力政策全史(上・下) [著]上川龍之進

[評者]齋藤純一(早大教授)

[掲載]2018年03月18日

[ジャンル]社会

表紙画像

■戦後の「暗黒面」を抉り出す

 権力の実態は、マクロな構造を見るだけではとらえきれない。細部に分け入ってはじめて見えてくるものもある。本書は、原発をめぐる権力を分析することを通じて、そこに凝縮されている戦後政治の「暗黒面」を抉(えぐ)り出す。その魅力は、具体名や個々の言動もおろそかにしない細部への関心にある。
 前半部の焦点は、「原子力ムラ」の中心、つまり東京電力にある。その権力の源泉は、電力会社に潤沢かつ安定した利益を保証する「総括原価方式」の仕組みにあった。本書は、財界・官界・政界・学界・メディア・立地自治体などに対して東電が振るった権力を、天下り、接待、コネ就職、票とカネ、広告宣伝、人事への介入などにも触れてつぶさに描く。
 この絶大な権力は、福島第一原発事故の後どう変化したか。後半部によれば、東電の影響力はさすがに後退したものの「原子力ムラ」はなおも健在である。この「ムラ」は、巨額に膨らんだ事故処理費用、核燃料サイクルの実質的破綻(はたん)、候補地すら見いだせない使用済み核燃料の最終処分場、穴だらけの避難計画といった数々の問題を抱えながら、「世界で最も厳しい水準」という新たな安全神話にも訴えて、輸出を含む原発回帰を図っている。一方で、原発とは本来矛盾する電力自由化の政策を進めながらも。
 原発は、複雑に絡み合った膨大な既得権益を生みだした。それをまもろうとする抵抗は、エネルギー政策の方向転換を阻み続けている。原発へのロックイン(はまり込み)は、いったん走り出した事業は、いかに不合理であることが分かっても容易には止められないというよく見られる事態の典型である。
 「ムラ」の住人は、互いに争っても、権益を死守し、内部最適化を使命と考える点では同質的である。外部を顧みないこの執着をどう突き崩していけるだろうか。
    ◇ 
 かみかわ・りゅうのしん 76年生まれ。大阪大准教授(政治過程論)。『日本銀行と政治 金融政策決定の軌跡』など。

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