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ドーナツ経済学が世界を救う―人類と地球のためのパラダイムシフト [著]ケイト・ラワース

[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)

[掲載]2018年03月18日

[ジャンル]経済

表紙画像

■二つの円が挟む持続可能な領域

 金融危機、貧富の格差、気候変動問題……。様々な社会問題をどう理解し、解決すべきか。その答えを求めて経済学部に入ってきた学生は、かなり面食らうかもしれない。抽象的な理論、数式、統計……。これらが現実とどう関わるのか、理論を学んだ先に果たして答えはあるのか、迷いが生じるだろう。
 著者は、オックスフォード大学で経済学を学び始めたとき、まさにこうした状況に直面した。教員たちは、学生思いで視野も広いが、彼らの教える経済学が回答を与えてくれるとは思えなかった。結局、著者は経済学を離れて国連とNGOで開発途上国の問題に携わるが、改めて経済学の影響力の大きさに気づき、研究者としてオックスフォードに戻る。そこでの思考の成果が、本書だ。
 この本は経済学的思考の特徴と、それとは対比的な著者の思想を、より多くの読者に直感的に伝えるため、簡明なイメージ図を多用する。「ドーナツ」は、著者の思想の核心を示す。ドーナツの外円は、経済活動がこれ以上拡大すると、自然や生態系を破壊してしまう点で、経済活動の上限を示す。ドーナツの内円は、それ以下に経済が縮小すると窮乏問題に直面することを示す。誰にとっても公正で持続可能な経済は、二つの円に挟まれた領域だ。
 これは、我々が求めるべきは、貧困問題と環境問題を同時解決する経済システムであることを示している。それには経済学に、全体性と人間性の重視、機械的均衡論からダイナミックな複雑性への移行、分配と環境再生の重視、そして成長依存からの脱却が求められると、著者は説く。
 本書は、出来上がった理論を現実に応用するのではなく、現実問題から出発し、課題に挑む中で新しい理論創造が始まることを教えてくれる。著者の試みが経済学をさらに魅力的にし、「冷静な頭脳と温かい心」をもつ未来の学生を惹(ひ)きつけることを期待したい。
    ◇
 Kate Raworth 経済学者。オックスフォード大環境変動研究所の講師兼上級客員研究員。

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