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ミライミライ [著]古川日出男

[評者]末國善己(文芸評論家)

[掲載]2018年03月25日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■もう一つの戦後から「今」を見る

 太平洋戦争後、ソ連が北海道を占領した。冷戦下に主権を回復した日本は、インドと連邦国家を作る。そして21世紀、本土復帰後もロシアの基地が残った北海道の4人の若者が結成した「最新(サイジン)」が、新しい音楽ニップノップを生み出し、世界を席巻する。
 古川日出男の新作は、実際に起きたかもしれない可能性を積み重ね、もう一つの戦後を紡いでいる。なぜ日本は、こんな歴史になったのか? その興味だけでも、読み始めたら止まらない圧倒的なパワーがある。
 「むかしむかし」から語られるのは、和歌を詠みながらソ連への抵抗を続けるいづる大佐を描く戦争小説、「最新」のメンバー野狐(のぎつね)、産土(うぶすな)らの成長とニップノップが完成するまでを追う青春音楽小説、「最新」のMCジュンチの誘拐が政治的な陰謀劇に発展するサスペンスといった多彩な物語である。これらが同時並行して進みながら次第にリンクするのに加え、古川作品ではお馴染(なじ)みの「熊」がしゃべり出し重要な役割を果たすので、神話的な色彩もおびる壮大な展開になる。
 本書の中心に置かれたニップノップは、アイヌ語を語源にする土地が多く、占領中はソ連の、復帰後はインドの影響を受けた北海道の風土が生み出した。多文化主義を象徴するニップノップは、多くの民族と宗教が混在する虚構の国家・印日連邦と共鳴することで、日本は単一民族という幻想を打ち砕き、国家とは、民族とは何かを問い掛けていくので考えさせられる。
 著者の描いた偽史は、アメリカに統治され、現在も基地問題に直面している沖縄や、分断国家になった韓国と北朝鮮などがモデルになったと思える。それだけに、否応(いやおう)なく日本を取り巻く「今」を想起してしまう。
 個人、社会、土地、様々な国の「むかしむかし」を語った本書は、歴史を多角的に見なければ、この国の「今」は分からないし、よき「未来」も作れないと気付かせてくれるのである。
    ◇
 ふるかわ・ひでお 66年生まれ。作家。『LOVE』で三島賞。『女たち三百人の裏切りの書』で読売文学賞など。

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