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ゲームの規則―全4巻 [著]ミシェル・レリス

[評者]円城塔  (作家)

[掲載]2018年03月25日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■人生を小説にする野望の行方

 人生を作品として織り上げ、書くことで、そこにひそむ秘密を解明すること。
 そんな野望を抱いた民族学者のミシェル・レリスは「ゲームの規則」と名づけたシリーズを、36年間にわたり書き続けた。
 シリーズは幼少期の思い出からはじまるが、客観的な自伝の形をとるわけではない。昔のことを書く場合でも、それを思いだしている今現在のことを書く。過去をふりかえるときにいちいち、そうあれは、何年の何月何日のことだった、と考えたりはしないから、読者の側では何が起こったのかは推測するしか他になく、それはときにレリス本人にとっても同様であったりする。
 過去はたちまち現在においつき、2巻目の『軍装』では1巻目『抹消』の不評を嘆いたりする。そうして、好評であればあったで不満だっただろうと続ける。2巻は幸いにして好評に迎えられたらしい。
 レリスは書きはじめから4巻本を想定し、タイトルまで考えていた。生きることと書くことの関係、音の類似に流されがちな自分の思考をつかさどる規則を探求していくはずだった。
 そんなレリスを襲うのは自殺未遂で、3巻目『縫糸(ほうし)』は顛末(てんまつ)を内部から書き記していく本となり、その後半部ではなんと、シリーズで予定されていた全体の構図までが明かされたりする。
 これは半ば、人生を自分の作品として書き終えることに失敗したと宣言したようなものなのだが、それでもレリスの人生は続く。
 4巻目の『囁音(しょうおん)』では、執筆用に集められたが、利用される予定ではなかった資料たちが、ばらばらに提示されていくことになり、タイトルも前作までとのつながりを弱めてしまう。
 現実が小説を超えたと見ることもできるが、ここでは同時に、青年期に思い描かれた構想からはずれた人生が、それでもなお続いていき、文学として自らのあるべき大きさに成長したと見ることもできる。
    ◇
 Michel Leiris 1901〜90年。フランスの作家・民族学者。著書に『闘牛鑑』『幻のアフリカ』など。

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