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3つのゼロの世界―貧困0・失業0・CO2排出0の新たな経済 [著]ムハマド・ユヌス

[評者]加藤出 (東短リサーチチーフエコノミスト)

[掲載]2018年03月25日

[ジャンル]経済

表紙画像

■人類の問題を「無私の心」で解く

 2008年の世界金融危機勃発以降、先進国の中央銀行は市場に大量のマネーを注入してきた。10年後の現在、世界経済は好調さを取り戻している。
 しかしこれは、超金融緩和策が生んだ新たな資産バブルで、資本主義の問題がひとまず糊塗(こと)された結果のように評者には見える。
 富の格差は再び激しくなった。昨年発表された推計では、世界の上位8人が持つ富は、下位半分(36億人)の富と同額になった。
 貧困問題に長く取り組んできたムハマド・ユヌスは、本書で強い懸念を表している。「富が集中する世界は、政治権力が一部の者に支配され、その少数者の利益のために利用される世界でもある」。それは環境の破壊にもつながり得る。
 しかし彼は意外に楽観的だ。「極端な富の集中は、人類にもともと備わった不変の運命などではない。人間が作り出したものなのだから、人間の努力で解決できる」し、「若者はシステムの欠陥にはっきりと気づいている」のだ。
 第一の課題として「利己心は資本主義的人間の一番の美徳」という考え方や、「利己的であることが奨励される経済と社会と政治のシステム」を変えるべきだと主張している。
 なぜなら現実の人間には「利己心と無私の心の両方が備わっている」からだ。ユヌスのソーシャル・ビジネス(貧困や環境など人類の問題を解決することに力を注ぐ無配当の会社)が世界各地で成功した背景にも、無私の心を持つ多くの人々の協力があった。
 従来の利己心に動かされたビジネスと、無私の心に動かされたソーシャルビジネスのふたつを若い世代に教え、どちらの道を歩みたいか、人生のどこかで同時にやってみてはどうか、と考えさせれば、社会は変化していくという。
 「このまま環境や健康、子どもたちの未来を犠牲にして、お金と権力を執拗(しつよう)に追い求めるのか」と問いかけるユヌスの言葉は重い。
    ◇
 Muhammad Yunus 40年生まれ。経済学者・社会活動家。2006年、グラミン銀行と共にノーベル平和賞。

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