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満州天理村「生琉里」の記憶―天理教と七三一部隊 [著]エィミー・ツジモト

[評者]寺尾紗穂(音楽家・エッセイスト)

[掲載]2018年04月07日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■証言が問いかける、宗教と個人

 奈良の天理市に拠点を持つ天理教は戦前、旧満州に開拓団を送り込んだ。他の開拓団でもよく聞くように、満州人の家屋と畑をわずかな金で手放させ、そこに天理教の人々が移り住んだ。その村と日本軍の七三一部隊が隣接していたという。細菌戦研究のために人体実験を行っていた悪名高い部隊である。その研究棟建設時から天理村の男たちが労働力として借り出されていた。
 本書では親子二代で、父親は建設に従事、息子は証拠隠滅のため殺害された「マルタ(人体実験用の捕虜はこう呼ばれた)」を数日にわたり焼却し、建屋を爆破したという証言が登場する。さらに、協力を強いられた天理村自体が、研究棟を超えて試験的に周辺に撒(ま)かれたペスト菌の被害を受けていたことにも本書は言及する。ペスト菌拡散に使われることになるハツカネズミの飼育は、関東軍から天理村小学校に飼育依頼がなされていた。読み進めるにつれて、ことの異常さが露呈していく。
 宗教団体の戦争協力は天理教に限ったことではなく、戦後過ちを認めた団体も多くある。しかし、執拗(しつよう)な弾圧を受けてきた新興宗教の多くは、存続のための有効な方策として国家への協力を選んでおり、過去の反省もほとんどなされていないと著者は指摘する。天理教もまた「大陸開拓の聖業」をなした、として負の側面を多く語らない。「ひとはいちれつ みなきょうだい」という教祖中山みきの教えを胸に大陸に渡った信者たちが経験させられたことは、帝国主義の特筆すべき醜悪な側面であり、数少ない証言者の悲痛な告白が、単なる歴史の皮肉とは片付けられぬ、事実の重苦しさを伝える。
 一見硬質な歴史本のように見えながら、証言者の痛切な思いが作品全体に血液のように巡っている。国家と宗教という問題のみならず、宗教と個人、「個人にとっての宗教」についても多くを問う意欲作である。
    ◇
 米国出身の国際ジャーナリスト。日系移民の歴史や捕虜問題などを取材。著書に『消えた遺骨』。

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