「奇をてらうより、素朴な食材でおいしいものを作りたい」。東京の人気ペルー料理店のシェフ太田哲雄さんはそう語る。でもアマゾン!? ワニやピラニア、派手な色の果物……。「アマゾンの料理は香辛料を多用せずクリアな味。食材を“いじめる”ということをしない。日本料理に通じます」
太田さんの料理を食べたことがある。一見ゆで卵だが口に入れるとトマトの風味が広がり驚いた。ペルー産カカオのケーキも初体験の濃厚さにうならされた。
長野県白馬村の生まれ。ペンションを営む父と山菜やキノコを採り、母が植えたハーブの香りに包まれて育った。高校生の時、アルバイトでお金をためては名店の料理を食べ歩いた。卒業後イタリアに語学留学。「料理用語だけは他の生徒よりぬきんでていた」
日本での修業後イタリアへ。スペインにも渡り、世界一予約が取りにくいといわれた「エル・ブジ」で最先端を経験した。そこで感じた違和感。そして、ペルーの世界的名店「アストリッド・イ・ガストン」を目指すが、その前に地方の伝統料理を学ぶことに。「最新技術より、暮らしに根ざした料理に興味があるんです」
11年間の海外修業の最後に、食材の宝庫であるアマゾン行きがあった。技術には保守的というが、食材への野心は隠さない。「森の蜂の巣から直(じか)に採った蜂蜜は舌にもたつかない。原種の果物でシャーベットを作ったらみんな驚くだろうなあ。誰も味わったことのない料理が作れたらなあ」
2度目のアマゾンでカカオと出会う。高質で希少なクリオロ種を無農薬で丁寧に育てる村。なのに村人は米国製のチョコレートを食べていた。コーヒーも同様。衝撃を受けた。直接買い付けて、賛同してくれるシェフに卸すという太田流フェアトレードを始めることに。「環境は守りつつ、生産者の手助けをしたい。このカカオの良さを海外にも広めたい。社会活動は欧州の方がしやすいし、問い合わせもある」
「大手企業に協賛を求めるのではなく、一料理人もやれば形にできると言うことを示したい」。この本の出版記念会を開き、会費は村の機材購入にあてる予定だ。
(文・写真 編集委員・吉村千彰)=朝日新聞2018年3月4日掲載
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