アニメや映画にもなった「若おかみは小学生!」シリーズで知られる作家の令丈(れいじょう)ヒロ子さんを迎えた「関西スクエア 中之島どくしょ会」(朝日新聞社主催)が今月上旬、大阪市であった。児童書ではなく大人向けに書いた小説『手をつないだまま さくらんぼの館で』(KADOKAWA)を入り口に、活字中毒だった幼少期の思い出などを明かした。
『手をつないだまま~』は、男子大学生で作家の主人公が、入院した親戚の代わりに洋館の管理を任されるところから始まる。そこへ親戚の孫として10歳の女の子がやってきて、戸惑いながらも一緒に暮らすことになるが――物語は半ばにして驚きの展開をみせる。
「一種の怪談実話みたいに不思議な話にしたかったんです」と令丈さん。「児童書では年齢層が低いほど、読後にちゃんと現実世界に戻れるように工夫してあげないといけない。でも、これは大人向けの小説なので、読者に任せるつもりで書きました」
「若おかみは小学生!」は、交通事故で両親を亡くした少女が、温泉旅館で若おかみとして働きながら成長していく物語。本作でも同様に、「喪失と再生」を描く。自身が繰り返し書いてきた「私のなかで一番重要なテーマ」だ。
令丈さんは実家が小児科の開業医で、幼い頃から「事故に巻き込まれて血まみれの人が担ぎ込まれたり、死の世界が近かった」。自らに生後まもなくして亡くなった兄がいたと知ったのもその頃だった。「亡くなった子が幸せになっていたら、そばで見てくれていたらいいな」と考えたことが、児童文学を書く原点にあるという。
来場者からの質問にも答えてもらった。「小さい頃はどのような子どもだったのですか」と聞かれると、「活字中毒で、印刷してあるものなら何でも読みました」。自宅にあった医学雑誌や料理の本にまで目を通した。「意味はわからなくても、『この字、知らんけど、いいな』とか。子どもながらに好きな漢字がありましたね」
「作家になろうと思われたのはいつですか」との質問には、「目指したのは大人になってから」と前置きしつつ、「小学2、3年の頃から自然と書くようになって。クラスの友達に読んでもらって人気があればノートに連載しますし、ないなと思ったら打ち切りにして……生活はいまと変わってないですね」と笑った。(山崎聡)=朝日新聞2019年3月30日掲載
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