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「若い読者のための考古学史」書評 「うしろ向きの好奇心」で宝探し

評者: 出口治明 / 朝⽇新聞掲載:2019年04月20日
若い読者のための考古学史 (Yale University Press Little Histories) 著者:ブライアン・フェイガン 出版社:すばる舎 ジャンル:歴史・地理・民俗

ISBN: 9784799107881
発売⽇: 2019/02/06
サイズ: 22cm/383p

若い読者のための考古学史 [著]ブライアン・フェイガン

 中学生の頃、古墳を掘りに行ったことがあった。土器の破片が多数出てきて夢中になった。その後トロイア遺跡発掘を描いた『夢を掘り当てた人』などを読んで古代史の面白さにすっかりはまってしまった。本書は考古学の歴史を通して考古学の魅力を分かりやすく語ったものである。
 私たちのうしろにあるものへ好奇心、つまり「うしろ向きの好奇心」である考古学は宝探しから始まった。当初の発掘は慌ただしくぞんざいだった。パリに送るべく梱包されたアッシリアの出土品の木箱235個を積んだ筏は現地の部族に襲われ2箱を除いてティグリス川に沈んだ。ダーウィンの「種の起源」は考古学の大きな転換点となった。初期人類を探し求める旅が始まったのだ。
 著者は、著名なエピソードを丹念に拾っていく。「牛だよ!牛!」と少女が発見したアルタミラの洞窟。エジプトのエル・アマルナで発見された「ファラオの通信文書館」。これによって当時の中東の外交関係が明らかになった。シュリーマンがトロイアで掘り当てた「プリアモス王の宝」とミケーネの黄金のデスマスクなどの埋葬品。ウーリーが聖書の都市で掘り出した「ウル・ナンム王の大ジッグラト」。そしてハワード・カーターによって発見されたツタンカーメン王の墓。黄金のファラオに世間は熱狂した。
 1949年、ウィラード・リビーが放射性炭素年代測定法を考案したことで、年代の測定が可能になった。LIDAR(光検出測距)はおそろしく正確で解像度の高い三次元データを取得する。そして現在は、レーザーや衛星写真、地中レーダーを使ったリモートセンシングによって発掘せずに地中の様子を知るという考古学者の夢が徐々に現実のものとなりつつある。
 本書はイエール大学出版局の「リトル・ヒストリー」シリーズの一つだ。平易だが入門書として最適の一冊に仕上がっている。
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 Brian Fagan 考古学者、作家。元カリフォルニア大教授。編著書に『水と人類の1万年史』など。