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【谷原店長のオススメ】体をすべて脳が制御していると思ったら大間違い エムラン・メイヤー『腸と脳』に学ぶ

 気温や気圧の変動が激しい時節、体調を崩したりしていませんか。今月ご紹介するのはエムラン・メイヤー著の『腸と脳』(紀伊國屋書店)。段田安則さんの紀伊国屋演劇賞・受賞式の際に、記念品としていただいた1冊です。健康にまつわる、ちょっと難しい本です。自分の体のなかで、腸と脳とが日々交わしている緊密な情報のやりとりが、心と身体に及ぼしていく影響について、科学的に探っています。

 著者はドイツ生まれの胃腸病学者で、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の教授です。本によると、僕たちの体の中では、腸と、腸内に宿る兆単位の微生物(マイクロバイオーム)、それから脳の3者が、双方向の伝達経路を介して密接に結びついているのだそうです。著者はそんな研究を40年間も続け、慢性的腹痛研究の第一人者として知られています。じつは先日、作家の道尾秀介さんと「体をすべて脳が制御していると思ったら大間違い」という話をしていたばかり。

 本書によると、腸内で生成された感覚情報は脳に達すると(内臓刺激)、脳は機能の調節を指示するシグナルを腸に送り返します(内臓飯能)。そんな腸と脳との緊密な相互作用が、感情の動きや、腸機能の維持に役割を果たすのだそうです。そんな腸内の環境に異変が起こると、過敏性腸症候群だけでなく、うつ病や不安障害、パーキンソン病といった疾患にまで結び付く可能性があると指摘しています。

 僕の身近なところにも腸の弱い人がいます。急に吐き気を覚えたり、トイレに行きたくなったり。腸の不調のせいで、車に乗るのをためらうなど行動範囲まで制限されてしまう時もあります。何とか改善すべくヨーグルトや納豆、キムチといった発酵食品を摂り入れるなど、模索を続けています。

 この本には、腸と脳のメカニズムだけでなく、健康維持に効果的な食習慣についても言及がなされています。自然で有機的なマイクロバイオームを育成する、動物性脂肪を控える、腸内微生物の多様性を最大化する、そして、食べ過ぎない――、などなど。これらはとっても分かりやすい解説で、さっそく採り入れてみたいと思いました。

 ちなみに、我が家の健康を意識した食習慣といえば、野菜を特に子どもたちに食べさせること。どうしてもお肉に偏ってしまいがちな彼らに、生野菜や煮物、いろんな野菜料理を献立に出します。好き嫌いはつくらせたくないので、無理やり食べさせるのではなく、最初は一口だけで徐々に増やしていくようにするなど、工夫をしながら食べるようにしています。

 僕自身は、もともと野菜がすごく好きで、だからなのか昔から腸が強いです。「今夜は肉が食べたい!」って思うこともあまりない。肉よりは魚のほうが好きです。アルコールはほぼ毎日、自宅で麦焼酎を少しだけ。最近は早寝、適度な運動を心がけ、舞台のある時にはストレッチと食事制限、筋トレを欠かしません。

 ただ最近は、「何となく寝覚めが悪い」「疲れが抜けない」「長く寝られない」といったことを感じることがあります。この本によると、腸が慢性的に炎症を起こしている可能性もあるとのこと。食生活だけでなく、働き方、就寝など、ライフスタイル全般を見直したほうが良いかなと思わされました。

 生放送の歌番組の司会を毎週務めていますが、僕自身は、緊張する場面でも、お腹が痛くなることはありません。でも、それって既に「麻痺」してしまっているのかも知れない。頭が麻痺しているのか、それとも身体が麻痺しているのか。頭では「大丈夫」だと思っていても、じつは心臓の動悸は上がっているかもしれない。そこにちゃんと気づける人と、気づけない人とでは、この先の我が身の健康に対する見方も変わってくるそうです。

 ちまたには「健康本」が溢れていますよね。家族の健康のため、僕も書店で手に取ることがままあります。なかには極端な本も出回っています。特にダイエット。一見、即効性があるように思える方法も見かけますが、そもそも理想とする体重が、ほんとうに、その人にとって健康な状態であるか否かは、人それぞれなのに……、と訝しんでいます。

 それに、「これさえ飲み続けていれば痩せた」という類のものは、全員に当てはまるものであるわけがなく、場合によっては健康被害を撒き散らす場合も。いま、美と健康が乖離しているようで、危惧しています。

 その点この本は、エビデンスに基づいた最新の知見を、第一線の医師が分かりやすく解説してくれるので、腑に落ちる人も多いのでは、と思います。

 忙しい現代、食生活の乱れが腸内のマイクロバイオームの異変を及ぼし、脳に関わる病気すら発現している。恐ろしいと同時にとても興味深いと思いました。食べ物が肉体だけでなく、精神形成にも影響するとは。堅い本ですが、健康維持へのアプローチが変わっていくと思います。 

 この本も面白いのでオススメです。『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』(津川友介・著)。ちまたの健康食の効果の是非を、医師である著者が、これも科学的知見から論じています。(構成・加賀直樹)