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ひがしちからさんの絵本「ぼくのかえりみち」 目の前の道をどう面白く進んでいくか

文:根津香菜子、写真:樋口涼

――普段、何気なく見ている道路の白線。この白い線の上をずっと歩いて行ったら、どこまでたどり着けるだろうか? ひがしちからさんの絵本『ぼくのかえりみち』は、小学生の男の子「そら」が、白線の上だけを歩いて家まで帰るという、だれもが一度は試みたことがあるだろう「一人遊び」を題材にした作品だ。学校から家まで一人で帰る退屈な時間を、いかに面白くするかという子供の想像力や発想力の豊かさが描かれている。

 絵本はずっと読み継がれるものなので、今も昔も子供たちが変わらずやっていることや、感じること、思っていることをテーマにしたいと思っています。でもそういうテーマって、大抵他の人がすでに絵本にしているんですよね。なので、題材を決めるのがいつも難しいです。

 ある時、ふと、学校の帰り道に一人でやる遊びをテーマに書いた作品があまりないことに気づいたんです。そこで、友達や知り合いに「子供のころ、学校の帰り道で何していた?」と聞いてみたら、石けりや「後ろ向きで歩き続ける」など、みんな何かしらそういう遊びをやっていたんですね。その話を聞いて「これは面白いな」と思いました。うちの近所の通学路にも長い白線があって、下校時間になると必ずその白線の上を歩いて帰る子供をよく見かけるんです。「僕が小学生の頃にやっていたことを、今の子もやるんだな」と思い、本作の題材に決めました。

――学生時代はデザイナーを目指し、大学のデザイン科に進学したひがしさん。児童文学研究会のサークルに入り、童話を書いたり挿絵を描いたりして、なんとなく絵本に興味を持ち始めた頃、偶然読んだ一冊の絵本が、ひがしさんの琴線に触れた。

 当時はイメージだけで「デザイナーになりたい」と思っていたんですが、実際に勉強してみるとだんだん違うなと感じ始めたんです。その頃、写真にも興味を持ち始めて、やりたいことが色々あってどうしようかなと思っていた時に『ぼくはおこった』(ハーウィン・オラム文、きたむらさとし絵・訳、評論社)を読んで衝撃を受けました。

 主人公の男の子が、お母さんに「早く寝なさい」と怒られたことに腹を立て、怒りのあまり嵐を巻き起こし、宇宙にまで行ってしまう、というストーリーなんですが、きたむらさんの絵は、イラストレーションの形を残しつつ独自の世界を描いていて、この話のスケールに合う画力と表現力があるんです。漠然と「何か作品を作りたい」と思っていた当時の僕にとっては、すごく刺激になりました。それから、きたむらさんの絵本を何冊も読んでいるうちに「絵本なら絵も文章も自分で書けるし、写真やデザインも、自分のやりたいことが全部できる!」と思い、絵本作家を志したんです。

「ぼくのかえりみち」(BL出版)より
「ぼくのかえりみち」(BL出版)より

――元々得意だったデザインや写真の知識も活かし「頭の中のカメラを動かしながら、色々なアングルで描くことが割と得意」と言うひがしさんの作品は、多角的な視点で描かれている場面が多い。本作で特に印象的なのが、横断歩道を渡るシーンだ。左ページでは、普段目にする平坦な横断歩道だが、右ページでは断崖絶壁のように描かれる。子供が実際に見ている風景と心象風景がうまく組み合わされ、思わず「白い部分から落ちたら地獄に行ってしまうのではないか?」と思うほどの緊張感とスリルが伝わってくる。

 本作の全体を通して「白線しか歩いてはいけない」という緊張感があった方がいいと思ったので、横断歩道は立体的に、下からあおるようにしました。他にも、そらが家にたどり着く手前のシーンでは、家は目の前なのに白線が途絶えてしまい「もうどこにも行けない」という絶望感を、後ろ姿で語るように描きました。

 この絵が完成した時は、我ながら「すごい絵が描けたな」と思いましたね(笑)。ラフでは色々なパターンを描いてみて、この場面で一番伝えたいことをうまく表すことができる構図は何か、ということを、楽しみながら考えています。

――そらの進む道の途中には、ザリガニを持った男の子が「一緒に遊ぼう」と誘ってきたり、大きな犬が白線をふさいでいたり……と、様々な誘惑や、乗り越えなければならない「壁」が出てくる。

 目の前にある道をどう進むか、壁にぶつかったらどうやって乗り越えるか、ということがこの作品の一番の肝なので、帰り道にどんな誘惑や障害物があったら面白いか色々考えました。そらは小学1、2年生を想定しているのですが、大人っぽい子供ではなく、子供らしい男の子だったらこんな時にどうするかな?と想像して描きました。

 僕は週に一度、園児たちに工作を教えたり、一緒に絵を描いたりしているんですが、彼らを見ていると、僕が子供だった頃と環境は変化しているものの、根っこの部分は全然変わらないなと感じます。「自分もこうだったな」と色々思い出したりして、絵本のネタを見つけることもありますね。描いてみたいテーマはまだいくつかあるので、これからも子供の気持ちに寄り添った作品を描いていきたいと思っています。