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五十嵐泰正さん「上野新論」インタビュー 居心地がいい懐の深さを

五十嵐泰正さん=東京都台東区、池永牧子撮影

 パンダがいる動物園に、美術館や博物館がある公園の「山」。そこから「街」に下りると、アメ横やエスニック屋台が並ぶ盛り場がある。山の手と下町が出会い、歩いて回れる範囲に集まっているのが上野だ。

 「キャラ渋滞の街です。一言で表す言葉は、見つかっていません」
 千葉県柏市生まれの五十嵐泰正さんにとって、都会とは上野だった。親や友人と遊びに来た。高校時代の1991年、イラン人がテレホンカードを売っていたのが印象に残る。
 東京大で国際関係論を学び、外国人労働者の研究を始めた。群馬県大泉町のエアコン工場で、ブラジル人やパキスタン人と3カ月間働き、話を聞いて修士論文にまとめた。

 「外国から来る人と、受けとめる側をトータルに見たかった。『多文化共生』は、知識人などとは違うところで起きていると思いました」
 英バーミンガム大へ留学し、学生に上野の話をすると驚かれた。狭い地域に多様なものが集積しているのは、世界的にもまれだと気づく。

 帰国後の2001年に調査を始めた。商店会の会合にも出て、話を聞いた。わかってきたのは、外国人を含め、商売をする人がどんどん変わり、家系のつながりもほぼないということ。貸しビル業を営む男性は、上野について「『メンバー総とっかえしたけど人気があり続けるバンド』みたいなもんなんだよ」と言った。

 五十嵐さんは、こう話す。
 「新しく入って来る人と、どう一緒にやっていくか、これは日本全体で考えるべきことです。上野は、様々な問題にぶつかりながらやってきました。新しく来た人も商売で成功し、コミュニティーに入り始めています。そして居心地がいい、懐の深さという気質は受け継がれている。いろんな街を勇気づけ、参考になることがあるんじゃないでしょうか」
(文・石田祐樹、写真・池永牧子)=朝日新聞2020年2月22日掲載