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「山とあめ玉と絵具箱」 山登りの楽しみ、自然体で描写

『山とあめ玉と絵具箱』から

 山登りを始めたと川原さんから聞いたとき、本当は羨(うらや)ましかったのに置いてきぼりにされた気がして寂しかった。登ればきっと撮りたくなるだろうから、わたしは山を避けてきた。

 ページを開くと、余白使いが美しい山の水彩画が幾つか目に飛び込んできた。同じ人が描いたように見えない、タッチの違うペン画はユーモラスで、絵というよりは図のようなものや抽象画もある。随所に挟まれる短いエッセイを読んで初めて、絵描きである川原さんにも描くか、描かずにいまを楽しむかという葛藤があったり、出発直前まで気が乗らず、山に行くか迷うことがあったりすると知った。

 「どちらかといえば、家にこもっているほう」だった川原さんの絵や言葉だからこそ、大好きなアウトドアグッズを集めるだけじゃなく今度こそ山に登りたいと思えてくる。「私の山でのモットーは、むりはせず、たのしむ余力を残すこと」。著者の自由な魂が、言い訳しないで好きなことをやればと読み手の背中を押す。=朝日新聞2020年10月3日掲載