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それぞれの「三千円の使いかた」から生まれた家族のドラマ  新井見枝香が薦める新刊文庫3冊

新井見枝香が薦める文庫この新刊!

  1. 『三千円の使いかた』 原田ひ香著 中公文庫 770円
  2. 『一度だけ』 益田ミリ著 幻冬舎文庫 649円
  3. 『未来』 湊かなえ著 双葉文庫 858円

 (1)IT系に勤める二十四歳の美帆は、やや背伸びしたひとり暮らしに満足していたが、同性の先輩がリストラされたことや、子育てしながらも貯蓄する姉の影響で、節約生活に目覚める。彼女を軸に、五つ年上の姉や五十代の母、七十代の祖母がそれぞれの価値観で貯(た)めたお金で、自分と大切な人たちのしあわせを見つけていく、「お金の使いかた」から生まれた愛すべき家族のドラマ。

 (2)姉と同居する派遣社員のひな子は、叔母の清子に誘われブラジル旅行に同行する。夫と離婚し介護ヘルパーとして働く姉の弥生は、ブラジルに行きたかったわけではないものの、清子が負担した妹の旅費が百八十万円と聞けば、おもしろくない。自由に生きる清子をきっかけに、現状に不満や不安を抱く姉妹と、二人の母であり清子の姉でもある淑江が一歩ずつ足を踏み出すのだが、全員いったんずっこけるところが、たまらなく愛(いと)しい。

 (3)父を亡くした十歳の章子に、二十年後の自分から手紙が届く。不安定な母を支え、経済的な不安を抱えながらも、手紙を信じて返事を書き続けることで、章子は未来に希望を持てる気がした。しかし、いじめで学校に行けなくなった彼女を、味方となるべき周囲の大人たちは身勝手に傷付け、居場所を奪っていく。彼女が未来へ向けて綴(つづ)る手紙から、その後も目を背けたくなるような事実が次々と明らかになるが、章子自身の、愛する人を守ろうとする気持ちと行動が、彼女の未来に光を灯(とも)す。=朝日新聞2021年9月4日掲載