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「ハイスクール・オーラバスター」シリーズ完結、若木未生さんインタビュー 「32年間、読んでくれてありがとう」

若木未生さん

新井素子に憧れてコバルト文庫へ

――「ハイスクール・オーラバスター」の簡単な紹介をお願いします。

 人間の心の闇に取り憑く〈妖の者〉と、超能力を持った術者と呼ばれる人たちの戦いを描くサイキック・バトル小説です。と同時に青春小説という一面もあって、術者の高校生たちが〈妖の者〉と戦う中で悩み葛藤し、自分自身とも戦っていく。そんな物語だと思います。

 主人公は崎谷亮介という少年です。亮介は同じ高校生術者の水沢諒、七瀬冴子、和泉希沙良、里見十九郎らと出会い、彼らとともに斎伽忍という青年のもと〈妖の者〉と対峙します。忍は〈妖の者〉を討伐する〈空の者〉総帥・伽羅王の転生した姿で、斎伽忍としての自分と伽羅王との間で苦しんでいる。亮介らはそんな忍から学び、そして時には反発しながら、〈妖の者〉と激しいバトルを繰り広げていきます。

――「オーラバ」の1巻『天使はうまく踊れない』が発売されたのは1989年。集英社のコバルト文庫や、講談社のティーンズハートが人気を博して巨大なマーケットを築き、少女小説が社会的にも注目を集めていた時期でした。

 少女小説がものすごく盛り上がっていましたが、私はその状況を全然知らず、作家になりたいという気持ちだけでコバルト文庫の新人賞に応募しました。コバルト文庫に投稿したのは、私の好きな新井素子さんのSF小説が出ているレーベルで、ここならSFを載せてくれるはずだと思ったから。ですが私がデビューした頃は女の子主人公の学園ラブコメが大人気で、SFはほとんど出ておらず、書きたいですと編集者に言ったら驚かれました。

 「オーラバ」を説明するために企画書を書いて、編集者にプレゼンしました。「放映中のテレビアニメ『天空戦記シュラト』などの仏教、密教ものも流行っているし、面白そうだから」とOKが出た。少女小説ブームの頃だったので、新人のデビュー作でも初版は3万部と、今から思えば夢のような時代でした。

――「オーラバ」は90年代のコバルト文庫を代表する人気作のひとつです。

 実は1巻が出た時点では、「オーラバ」はそこまでは売れていなかったんです。初めて重版がかかったのも2巻の『セイレーンの聖母』だし、最初は売れているという実感はあまりなかった。ですが読者からの反響は大きく、手紙がたくさん届いたので、何か求められているとは感じていました。

――読者は作品のどこに心を掴まれたのでしょうか。

 主人公の亮介は学校ではそこそこ上手く過ごしているけれど、実は〈妖の者〉が見えるという不思議な力があって、他の人とは違う自分を隠して生きている。何かを隠して生きていたり、周りにあわせるために本音を言わない姿を見て、読者は「私のことが書いてある!」と思ってくれたようです。

――「オーラバ」に影響を与えた作品を教えてください。

 いろいろあります。作中に直接反映されているものを紹介すれば、山田風太郎さんが『里見八犬伝』を翻案した『八犬伝』が大好きで、物語のモデルとして自分の中に染み込んでいます。十九郎の名字を里見にしたのも、『里見八犬伝』が好きだからです。あとは新井素子さんの『星へ行く船』が憧れで、水沢諒の名前は作中の水沢総合事務所からいただいています。筒井康隆さんも好きな作家のひとりで、七瀬冴子の名前は七瀬シリーズに由来します。

「オーラバ」の第1巻『天使はうまく踊れない』と第2巻『セイレーンの聖母』

「女子大生トリオ」と呼ばれて

――若木さんのデビューと前後して、『破妖の剣』の前田珠子さんや『炎の蜃気楼』の桑原水菜さんがデビューしました。

 コバルト文庫のファンタジーの流れを作ったのが前田珠子さんです。前田さんは異世界ファンタジー小説を書きたいと編集者に直談判して、『イファンの王女』というかっこいい本を出した。この本が売れたことで、コバルトでもファンタジーがいけるとなりました。

 当時のコバルト文庫は作家ごとに背表紙が色分けされていて、読者はそれを目印にして本を買っていました。前田さんが白地に青文字だったので、私もイメージを共有したいと、白地に緑文字にしてもらいました。前田さんとはたびたび長電話をして「オーラバ」のアドバイスをいただいたので、『天使はうまく踊れない』のあとがきでお礼を書きました。狙っていたわけではないですが、読者は前田さんと仲がいいのならファンタジーを読ませてくれるのだろうと、私の作品も手に取ってくれた。前田さんが一足先にデビューしてファンタジーを盛り上げてくれたのは、私にとって大きな幸運でした。

――前田さんがファンタジーの扉を開いたとすれば、若木さんや桑原さんは少年主人公小説やサイキック・アクションの流れを牽引しました。

 私の半年後に新人賞を受賞した桑原さんとは、デビュー作に一年くらいのずれがあります。桑原さんは最初から「オーラバ」を意識してくださって、『セイレーンの聖母』の時には「オーラバ」が好きです、私も負けないぞという思いが伝わる熱い手紙をいただきました。その後『炎の蜃気楼』の1巻が発売されて、これはやばい、大変な人がデビューしたなと思いました(笑)。さらにその後、『最愛のあなたへ』というターニングポイントとなる巻が発売されて、シリーズはもっと大変なことになっていくわけですが。『最愛のあなたへ』で桑原さんはこちらに行くのだという道がはっきりと見えました。

――コバルト文庫では作家同士の関係性も親密でしたよね。

 新人賞の授賞式にあわせたパーティーが開催されていたし、作家たちが顔を合わせる機会も多かったです。私も前田さんも桑原さんも、それぞれ歩く道は全然違ったけれど、お互いを意識するライバルであり、大切な仲間でもあった。たまたまみな大学生だったので、編集部が「女子大生トリオ」と言い出して、我々的には「無理矢理まとめたな」(笑)とは思っていましたが、その絆は今になっても残っています。「オーラバ」が完結して桑原さんがTwitter上で祝ってくれた時も、女子大生トリオの一人よりと書いてくださって、変わらない絆を感じました。

編集者に嫌がられたメディアミックス

――「オーラバ」には魅力的なキャラクターがたくさん登場します。完結した今、特に思い入れのあるのは誰なのでしょうか。

 みなそれぞれに思い入れがありますが、今だと希沙良でしょうか。32年かけて一番立ち位置が変わって成長した子だし、成長させるのが使命でした。

――思い入れのある巻やエピソードを教えてください。

 これも難しいけど、『不滅の王』と『永遠の娘』という二部作を挙げたいです。『不滅の王』は『オーラバ』のひとつの形の完成形で、自分としてもいい話を書いたなと満足しています。長いシリーズになったので、外からのキャラを入れないと途中から読むのは難しいと思って春名子を出しましたが、彼女がいろいろなものを見届けてくれました。

 あとは物語のターニングポイントであり、自分としても最初に手応えを感じた2巻の『セイレーンの聖母』でしょうか。この巻で初めて敵方の妖者三忌将という設定を出したけど、手応えを感じたと同時に、敵方との因縁を最後まで書いたらかなり長い旅になるぞとも思いました。ちなみにこの巻は著者校正で赤文字を入れたのにそれがうまく反映されなくて、渾身の力を込めて書いたのに、誤植で伝わらないと大泣きした思い出もあります。ちょっと過剰に思い入れがありました。

――「オーラバ」はコミカライズやイメージアルバム、オーディオドラマやOVAなど、さまざまなメディア展開も盛んでした。

 自分から企画を提案していたわけではなく、いただいたお話を受けていました。ただ企画にアイディアを提供することはあって、『天冥の剣』のCDは音楽の間に声優さんの台詞を入れてうまく作れたと自分でも気に入っています。今だとメディアミックスは本の販促になると歓迎されていますが、当時はそういう認識はなくて、むしろ作家の仕事を遅らせると不評だった。若木さんはすぐ収録スタジオに行ってしまうと、編集部からは嫌がられていました(笑)。

――2004年に出た『オメガの空葬』がコバルト文庫から刊行された最後の巻となりました。なぜシリーズは中断したのでしょうか。

 私が受け止めている結論から言うと、コバルト文庫で戦力外になったのだと思っています。コバルト文庫では1年に4冊くらい新刊を出すという暗黙のノルマがあったけど、ハードワークでぼろぼろになったり、病気でしばらく動けない時期があったりして、私は求められている作品数を書けなかった。

 それと、同じ頃に「オーラバ」ともうひとつの柱である「グラスハート」というシリーズのイラストレーターさんそれぞれから、降板の申し出がありました。そのことを私は教えてもらえず、編集者は今はおふたりともお忙しくてイラストをお願いできないから新シリーズをと言うので、『ゆめのつるぎ』という新作を書きました。ですが「グラスハート」があと1冊で完結するというタイミングだったこともあり、「グラハ」や「オーラバ」を書かずに何をやっているのだとファンからものすごくお叱りを受けて、心がぽきっと折れてしまった。やはり新シリーズより「グラハ」を書きます」と言って書いたのですが、原稿を渡しても雑誌に載せてもらえないし、本を出してもらえない。その後もいろいろなことがありましたが、ともかく前巻から間が空きすぎているし、次を出しても売れる保証がないので、コバルト文庫ではもう「グラハ」を出せないと言われました。私は戦力外通告を受けたんだな、各シリーズを終わりまで書くためには外に出ていくしかないと、コバルトから卒業することにしました。

インタビューに応える若木未生さん

再始動と悔いのない最終巻

――「オーラバ」は2011年から『ハイスクール・オーラバスター・リファインド』という名前で再始動します。どのような経緯で徳間書店に移籍したのでしょうか。

 もともと『真・イズミ幻戦記』や、『オーラバスター・インテグラル』という「オーラバ」の外伝でお世話になっていたので、その流れで徳間書店に引き受けていただきました。シリーズが再開して『天の聖痕』が発売された時、ファンは喜んでくださったけど、辛い展開だったので悲鳴も多かったです。『オメガの空葬』『天の聖痕』『白月の挽歌』の三部作は、『セイレーンの聖母』から続く十九郎と幻将・皓の因縁の決着の話です。これがものすごく辛い内容で、身を削られながら、這いつくばるような感じで書いていました。

――最終巻『最果てに訣す』の展開はいつ頃から決まっていたのでしょうか。

 結末自体は『セイレーンの聖母』の時にほぼ固まっていました。ただ忍さんがどうなるのかが長年の宿題で、彼と討論しながらずっと書き続けてきた感じです。

――『最果てに訣す』の執筆時に意識したことはありますか?

 悔いの残らない本にしようと思いました。あとは文章の贅肉を取るというか、純度の高い文章を書くことを自分では意識していました。大変だった十九郎の話が終わった後はニュートラルな気持ちになり、忍さんの台詞で一箇所泣いた以外は、静謐な気持ちで最終巻を書き上げることができました。

――同時発売された外伝集『アンダーワールド・クロニクル』には、各時代に発表された同人誌作品が収録されています。これを読むと若木さんの文体の変遷が一目瞭然で興味深かったです。

 私がそういう人を呼ぶ本を書いているのかもしれませんが、文章や文体に目がいく読者がすごく多いし、自分でも文章は重要な要素だから大事にしなきゃと考えていました。その時にベストだと思う文章を常に書いていますが、一冊通して読むとものすごい変遷がありますよね。

――最終巻が刊行されて少し経ちましたが、反響はいかがでしょうか。

 いろいろな人から、「ありがとう」とお礼を言われました。「こちらこそ読み続けてくれてありがとう」という気持ちです。あと「オーラバ」が私の青春だったと言ってくださる方も多いですね。20代の頃に雑誌のインタビューを受けて、その時に「オーラバ」はライフワークなんでとぽろりと口にしたら「こんな若い人の口からライフワークという言葉が」とものすごく驚かれたけど、結果的に32年をかけたライフワークになってしまいました。全力を出したし、悔いはありません。

――「オーラバ」ファンと、今回初めて「オーラバ」を知った人それぞれにメッセージをお願いします。

 何度も待たせたり、不安にさせることが多かったですが、それでも読み続けていただきありがとうございます。今後の具体的な予定が決まっているわけではありませんが、あくまでハイスクールなオーラバスターが終わっただけなので、ハイスクールではない話でいつかまた会えるかもしれない。そんな気持ちでいていただけると嬉しいです。

 そして「オーラバ」を読んだことがないという人は、私が言うのもなんですが、本当にラッキーです(笑)。今なら一気読みできます。長い話ではあるけれど、途中から読んでいただいてもかまわないので、自分にフィットしそうな巻からぜひ手に取ってみてください。