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「塩川いづみ作品集 ペン、鉛筆、ひと、動物、植物」 一筆で書いたように見える線に滲む人間性

『塩川いづみ作品集』から

 シンプルなタイトル。ページを繰るごとにそれは、この本に収められた絵を描くのに塩川さんが必要とした、5つのエレメントを指すのだとわかってくる。

 塩川さんの作品との出会いは、本書にも作品の一部が掲載されている「赤い目のものたち」の前、代々木八幡のカフェで開かれた「ネコ」という展覧会だった。しゅしゅっ、と一筆で書いたように見える線は、これ以上減らせないほど最小限だけ引かれているようなのに、描かれたものの感情や次の動作、場所(背景は描かれないのに)まで見えてくる。モデルを知らないから実際のことはわからない、でも、見るものにそう思わせる絵なのだ。

 線にはいつも、わたしの知る塩川さんのキャラクターが滲(にじ)み出ている。絵に嘘(うそ)がないな、とも思う。飽きずに、いくらでも眺めていられる。そして真夜中、鉛筆と紙を買いに、いますぐにでも画材屋へ出掛けたくなってしまって、とても困る。=朝日新聞2022年7月2日掲載