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「書店主導の出版流通改革」狙いは CCC・日販と新会社設立へ、紀伊国屋書店・高井昌史会長に聞く

紀伊国屋書店・高井昌史会長

 出版物の返品率は依然として高く、取次の日販もトーハンも赤字。地方だけでなく、大都市でも書店がなくなっている。大手出版社4社は海外需要に支えられ好調だが、その他の出版社はやはり厳しい。

 《新会社では書店が出版社から直接仕入れる仕組みを作ると発表した》

 出版社との交渉のなかで当然、直仕入れも出てくる。3社の傘下の本屋を合わせると、書店経由の出版物売り上げの20%強を占める。それだけの規模の本屋が直仕入れをするようになるかもしれない。

 (出版社との条件交渉など)商流は新会社が担い、日販は物流を担うという流れを作っていく。従来の取次は減っていくでしょう。

 日販は大きな決断をしたと思う。昔は全国の書店に大量に送って、売れなければ返していたが、今はそんな非効率なことはできない。適正な送品で返品を減らすとともに、欠品も防ぐことが求められる。

 《出版科学研究所の発表によると、22年の返品率は書籍が32・6%、雑誌は41・2%だった》

 紀伊国屋書店では、在庫の自動補充システムを自社開発したり、出版社に対して積極的に配本指定をしたりすることで、返品率を27~28%まで下げてきた。業界全体でも、少なくともこの程度まで抑えたい。

 流通業には川上と川下の問題がある。この業界ではこれまで、川下からの改革があまりなかった。でも、読者に一番近い書店が出版社や取次に言われるままだと、何も変わらない。書店が努力をして、出版社にとっても利益を生む仕組みを作ってあげないと。場合によっては、8~9割を(委託販売ではなく)買い切るということも、交渉の中で出てくると思う。

 紀伊国屋書店の社員の約3分の1は海外赴任や洋書の仕入れの経験があり、買い切りに慣れている。うちの利益は、連結決算だと海外の方がずっと多い。まだ日販、CCCと具体的な合意はないけど、新会社でも海外をめざしていきたい。

 一方、国内の地方では、本屋が蔦屋書店しかない町も結構ある。そういう町でこそ、行政や図書館、学校、家庭と手を組み、本屋を一つの文化サークルの拠点にして、町おこしのモデルをつくっていきたい。

 去年、紀伊国屋書店が指定管理者になってリニューアルオープンした熊本の荒尾市立図書館では、隣に本屋も作った。図書館には人が殺到し、本屋も順調。図書館で借りるか本屋で買うかはお客さんが判断する。どちらにせよ、本好きの人が集まる場所ができれば、読者がどんどん増えていくわけだから。

 《新会社では、AIを活用した仕入れの適正化についても協議するという》

 AIに全部を任せるのではなく、大切なのは書店の現場や、バイヤーの力。小さな地方出版社の本も含めてチェックして、良い本がお店に並ぶようにしなければならない。

 現場には本に詳しい人が本当にたくさんいる。彼ら彼女らが目をつぶって待っていればいいような商売はしません。読者が行きたいと思う本屋を、どんどん作っていきたい。(聞き手・田中ゑれ奈)=朝日新聞2023年9月13日掲載