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peco さん「My Life」インタビュー 「新しい家族のかたち」そして永遠の別れ。彼への愛は揺るがない

pecoさん=篠塚ようこ撮影

いっぱいの愛をもらった

――『My Life』には、現在5歳の息子さんと1歳半のワンちゃんがいる、28歳のpecoさんのありのままの心情が綴られ、さまざまな出来事を乗り越えられたご様子が伝わります。

 ありがとうございます。自分の言葉をひとつの形にしたい、読んでいただく方にも私の本当の気持ちが伝わりやすいと思って、今回、本を出しました。そもそもは2022年に私とryuchellが「新しい家族のかたち」になることをみなさんに発表した時に、とてもあたたかい応援の言葉をたくさんいただいたのですが、「pecoちゃんは優しすぎるよ」「大丈夫なの?」といった心配のお声もあったことがきっかけです。

 ryuchellと結婚する時も、息子を出産する時も、それぞれ覚悟してのことでしたから、私の中では「新しい家族のかたち」になることも同じ。心が広いとか、優しすぎるということはないんです。何より、「新しい家族のかたち」になるという決断ができたのは、相手がryuchellであったこと。そしてryuchellからのいっぱいの愛をもらったこと。だからこそ変化した出来事も受け入れられましたし、新しい道に進むことができました。

――2016年にryuchellさんと結婚、2018年に出産、2022年に夫婦という関係を解消しましたが、2023年にryuchellさんが突然、この世を去りました。出会いから現在までを振り返ることは大変な作業だったのではないですか。

 まだ28年しか生きていませんが、純粋にすごく楽しい人生ですし、親に育ててもらって今の自分があると再確認できました。ただ、ryuchellとのことを振り返る時は、やっぱり大変でした。「新しい家族のかたちで進みましょうね」となった直後に、この本を作ることが始まったので、当初はまだ私も泣いたり苦しくなったり……。ですが、自分の思いを言葉にさせてもらうことによって、「これで大丈夫だ」とだんだんと心の整理ができるようになってきて、良い機会をいただいたと思いました。

「理想の王子様」だった

――おふたりが出会った頃、男性でもメイクをしてかわいくなることを楽しむryuchellさんの「自分らしさ」に魅了された様子も書かれています。その頃から「女の子に興味がないのかな」と思っていたからこそ、後にryuchellさんがカミングアウトした時はさほど驚かなかったそうですね。

 最初、ryuchellと出会った時は、ひと目で「理想の王子様」だと思いました。さらに「すごく自分をちゃんと持っていて、好きなものを貫いている人だ」とも感じて。私は、ファッションに限らず考え方にしても、人と一緒は嫌。人と違うことが好きですし、人と違うことができる人も好きなので、ryuchellはそういう意味で光っていて、すごく惹かれて大好きになりました。ただ、きっと男の子が好きだろうなと思っていたからこそ、「お友達でもいいから人間として好き」と思っていて。だからこそ、付き合うことができて、すごく楽しかったです。

 結婚した時も、私は「これからお互いに何があっても、ryuchellに何が起きても絶対に味方でいる。家族という輪の中に入った以上、同じ方向を向いて死ぬまで一生、同じ輪の中にいられるようにする」と、それぐらい重いものが結婚だと思っていました。だからこそ、ryuchellからのカミングアウトを受けてもちろん驚きましたが、本当に「勇気を振り絞って言ってくれてありがとう」と思えたんです。ryuchellは「だましていてごめんね。嘘ついてごめんなさい」と言ってくれたんですが、私は今でもだまされていたとか、嘘をつかれていたとはまったく思いません。

 それはryuchellからの愛をきちんともらっていたから。私にしかわからないことですし、周りが何と言おうと、その愛は揺るがないので、ryuchellからの告白も受け入れられました。そこからは、ryuchellが自分らしく、今まで抑えていた部分を放てるようにどうしたらいいか、一緒に考えていけたらいいなと思いましたね。生まれ育った環境も、親から受けた愛の形もそれぞれ違うように、私たちも違う。そんな私たち、そして息子に対して、何が一番良いかの話し合いは最初平行線ですごく大変でした。ただ、同じ家族を思ってのことには変わりがないので、本当に頑張りました。

――本作を読んでいてもryuchellさんへの愛情が伝わってきます。

 激動の2年を過ごして、本当に人生何があるかわからないと実感しています。それこそ、私もこの先どういう人生を歩んでいくのか、誰とどうなるか何もわからないですが、もしこの先、私の人生に何があっても、ryuchellは家族。ryuchellのことを思う気持ちは、ずっと消えません。

「自分のなりたい自分でいい」

――多様性がうたわれる令和の時代となり、個性を尊重できる時代でもあり、pecoさんの言葉は悩んでいる方々への後押しにもなっています。もし身近に、自身の性について迷ったり悩んだりしている人がいたら、どのように声をかけますか。

 例えば、自分の子どもが性について悩んでいたら、私は「本当にそのままでいいよ」と伝えたいです。身近な人が悩んでいて、さらにそのことを言うか言わないか迷っていたら、「あなたがもし言いたいんだったら言えばいいし、言いたくなかったら言わなくていいよ。でも、あなたはあなただよ」って言ってあげたい。「ベストを尽くした」と言えるまで考えた末の結論だったら、それがあなたの正解だと思うから。

 ただ、これがパートナーだった場合、私の場合はましてやそこに子どもがいる以上は、ありのままでという自分たちの思いだけで動けることじゃないからこそ、すごく難しくて複雑なことだと感じました。ですが、自分と家族が選んだことは絶対大丈夫という自信があります。

 今、LGBTQ+や多様性と言われている時代。これまで自分の性について、隠していたから落ち着いて生きてこられた人もいると思うんです。やはり最終的に決めるのはその人自身でしかないので、「自分のなりたい自分でいていいんだよ」と伝えたいです。

――ご自身のお考えを強くお持ちの印象です。皆と同じだから安心することもあると思いますが、新しいことを選ぶ、進むということは不安もあるなか、pecoさんは一歩踏み出せる強さがありますね。

 正直なところ、私は何かをチャレンジすることは好きではなく、新しいことにあまり心踊らないタイプなんです。ただ、それ以前に「自分は自分、人は人」という考え方がベースにあって。自分が決めたことだったら、新しいか新しくないかは関係なく、周りの人がやっていようとやってなかろうとやってみる。それだけですね。それこそ、私たちは「新しい家族のかたち」を発表したことが、世の中としては少し珍しいことだったかもしれません。ですが、最先端にいたいとか、多様性の先駆けでありたいという思いではなく、私たちが自分で決めたことだから、こうなりました。

守るものがあると強くなれる

――pecoさんの強さは、ご両親のお考えが影響したところもあるのでしょうか。

 父は字を書くのが上手だったり、ピアノがすごく上手だったり。そういうところでは、私も字を書くことやデザインすることが好きなので、多少は影響を受けたところがあるかもしれませんね。マインドという意味では、母の存在があるからこそ、今の私があります。母は「しゃあない」が口グセ。何かトラブルが起きても「それはもう、しゃあないわ! どうしたらいいか考えよう!」という(笑)、完全に前しか見ない性格なんです。私も自然とそれが当たり前になっていて、くよくよしません。今も何か起きても「こうなってしまったもんは、しゃあない!」と思って生きています。

――母は強しですね。今、子育てで一番大事にしていることは何ですか。

 今はとにかく息子が自分自身のことを好きでいてくれる、好きでいられる大人になってほしいと思っています。何かあった時の声かけもよくしていますね。ryuchellがいなくなって、息子が私に話してくれる本音みたいなものも、全力で日々受け止めています。

――お子さんはおふたりの良いところを受け継いでいるのでは。

 親バカになってしまいますが、息子はryuchellの優しさを受け継いでくれていて、めちゃくちゃ優しいんですよ。私の強くポジティブなところも受け継いでくれていて「私たちの子どもだな」と実感します。息子には、「一番カッコいいのは強くて優しいことだよ」といつも言っているんですが、そのまま優しい強さで大きくなっていってほしいです。

――あらためて家族はpecoさんにとってどのような存在ですか。

 めちゃくちゃベタなセリフかもしれないですが、「守るものがあると強くなれる」と、この数年で本当に実感しています。心から大切に思う人がいるから、その人を守りたいと思って強くなれる。世間の方が「pecoちゃん強いねえ」と言ってくださるように、もともと強いんですが(笑)、さらに強くなって。こうして前に進めているのはryuchellと息子と(ワンちゃんの)アリソンという大事な家族の存在があるからこそです。

――本作を手に取られた方に、どんなメッセージが届くと良いなと思われますか。

 本に限らず、洋服でも何でも、受け取り方はいろいろですよね。意図と違う感じで受け止められることもあるだろうなと思っていたのですが、今回、SNSの感想を見させてもらっている中では、私の思いをまっすぐに受け取って読んでくださっている方ばかりで有り難いです。ただ、この本で誰かの背中を押したいとも、この考えにしてほしいとも思っていなくて。深く考えずに読んでもらいたい。読んだ後に、なんとなくでも「今の自分でいいんだな」と思ってもらえたなら、めちゃくちゃ私は幸せです。