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アホウドリと「帝国」日本の拡大 南洋の島々への進出から侵略へ [著]平岡昭利

[評者]上丸洋一(本社編集委員)

[掲載]2013年01月27日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■南方進出の出発点を検証

 「アホウドリ」で思い出すのは、史実に材をとった吉村昭の小説「漂流」だ。江戸時代後期、しけにあって鳥島に流された土佐の船乗り長平が、アホウドリの肉を主食に12年半を生き延び、八丈島、江戸を経て、ついに故郷への帰還を果たす物語だ。
 明治になって、そのアホウドリが日本人を南の島へと招き寄せる。日本の南方進出の出発点にアホウドリが存在した。本書は、その事実を歴史的に検証したユニークな研究書だ。
 八丈島の大工だった玉置半右衛門が鳥島に上陸したのは、1887(明治20)年のことだった。目当てはアホウドリ。人を恐れぬこの大型の海鳥は捕獲が容易だった。15年間に600万羽を捕獲したというからものすごい数だ。羽毛を欧州に輸出して、玉置は巨万の富を得た。
 その後、アホウドリで一獲千金をもくろむ人々が、南海の無人島開発に次々と乗り出していった。その足跡は南鳥島、尖閣諸島から硫黄島、さらには中部太平洋ミッドウェー諸島、北西ハワイ諸島などにまで及んだ。
 しかし、乱獲がたたって、アホウドリは、どこでも数年で捕獲数が激減した。1905年ごろからは、肥料の原料となるグアノ(鳥のフンが堆積(たいせき)して固まったもの)やリン鉱が、アホウドリにかわって、南方進出の目的となる。
 著者が、この研究にとりかかったのは40年ほど前。地理学のフィールドワークで、沖縄本島東方の南大東島を訪れたのがきっかけだという。
 明治期、南大東島を開拓したのは八丈島から来た人々だった。何のために人々は、はるか1200キロの海を越えて、無人の南大東島にやって来たのか? 著者は「長い探究の旅」を続け、本書を書き上げた。
 尖閣諸島の開発者、古賀辰四郎については、その履歴をめぐって通説に事実誤認があると指摘している。
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 明石書店・6300円/ひらおか・あきとし 49年生まれ。下関市立大教授。人文地理学、島嶼(とうしょ)地域研究。

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