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南シナ海―アジアの覇権をめぐる闘争史 [著]ビル・ヘイトン

[評者]吉岡桂子(本社編集委員)

[掲載]2016年02月28日

[ジャンル]政治 社会

表紙画像

■長い時間軸で示す、不測の危険

 岩礁を埋め立て滑走路を造り、地対空ミサイルなどを展開して「軍事拠点化」を進める中国。秩序への挑戦に「航行の自由」を掲げて軍艦を派遣する米国——。「小さな岩や暗礁」の連なる南シナ海が、中国の「野心」と米国の「戦略的意志」とがぶつかる場所となったのはなぜか。
 本書は、この地域をめぐる先史時代から今にいたる覇権の歴史を、国際法、資源、ナショナリズム、外交、軍事とあらゆる角度から解説する。原著が出版された2年前よりさらに緊張が高まるなか、長い時間軸で考えるための材料がもりこまれている。
 国境や所有の意識を持たない海の遊牧民がかつて、インドから遠くマダガスカルまで海洋ネットワークを築いていた史実を説き起こす。沿岸の国々が主権国家として国境の意識を強め、領有権を主張しあう紛争が増えたのは、20世紀以降のことだった。
 「古代から中国に属する」とする、中国が領有権の主張で必ず持ち出す「神話」をまず、否定する。あわせて、それが必要な彼らの事情を指摘する。国内政治では共産党支配の正統性と一体化しているうえ、米中の力の差が明白なうちは「中国脅威」論が実力以上に国力を大きくみせる価値ある戦略とも考えられているからだという。
 米中「二大勢力」の対立の深まりと、地域内の領土紛争との「相互作用」がもたらす予測できない危うさへの懸念が、くりかえし示される。
 著者は、ベトナムやミャンマーで報道に携わった経験を持つジャーナリスト。米中の間でかけひきする東南アジアの国々の微妙な立場の差や、対立にむしろ利益を求める政治家や軍需産業の動きもエピソードをまじえてつづる。
 中国が英語を訳してつけたとされる島の名前も興味深く、地図を拡大コピーして手元に置いて読んだ。それでも、世界を揺さぶる「島々」は黒い点のようだったが。
    ◇
 安原和見訳、河出書房新社・3132円/Bill Hayton ジャーナリスト。「BBCワールド・ニュースTV」勤務。


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