日本における移民(在留外国人)の数は今や約250万人。地域や職場、学校で接する機会も増えつつある。そんな時代の宗教の在り方を論じた『現代日本の宗教と多文化共生』(明石書店)が出た。宗教社会学者や文化人類学者ら9人による学際的なプロジェクトで、対象はインドシナ難民からムスリム(イスラム教徒)まで多岐にわたっている。
宗教はアイデンティティーの基盤となり、時には異国での暮らしで互助の役割を果たしもする。同書は「社会的排除にさらされ、生活上の困難を抱えがちな移民たちにとって、宗教組織や宗教者が果たす役割はきわめて大きい」と指摘する。それにもかかわらず、日本では「警戒感もしくは無関心」などから、宗教の重要性は行政や地域社会から見過ごされてきた。
多文化共生という言葉は1990年代、移民への偏見や差別意識の解消を目指す、との意味合いを含んでいた。しかし2000年代に国や自治体レベルで使われるようになり、そうした問題意識が希薄化した。
同書は多文化共生を「宗教組織内」「宗教組織外」という二つの視点から検討する。前者は同じ信仰を共有しつつも異なる国籍や言語などを持つ人々の共生について、後者は社会との関わり方についての分析だ。
編著者の一人、桃山学院大の白波瀬達也准教授はこう語る。「日本では社会の無理解ゆえに、移民が集う教会やモスクが『迷惑施設』とみなされることがあります。しかし、信仰は基本的な権利。どのように受け入れるかの作法が問われる。宗教の側の努力も必要です」(磯村健太郎)=朝日新聞2018年7月25日掲載
編集部一押し!
- 著者に会いたい 新井浩文さん「文書館のしごと アーキビストと史料保存」インタビュー 記録なくして検証なし 朝日新聞読書面
-
- 朝宮運河のホラーワールド渉猟 呪いとは何か 現代に生きる呪術に迫る3冊 朝宮運河
-
- 新作映画、もっと楽しむ 映画「陰陽師0」奈緒さんインタビュー 平安時代の女王役「負の感情を『陽』に。自分の道は変えられる」 根津香菜子
- インタビュー 「尾上右近 華麗なる花道」インタビュー カレーと歌舞伎、懐が深いところが似ている 中村さやか
- 中江有里の「開け!本の扉。ときどき野球も」 生きるために、変化を恐れない。迷いが消えた福岡伸一「生物と無生物のあいだ」 中江有里の「開け!野球の扉」 #13 中江有里
- 大好きだった 君のお父さんもお母さんも立派な人だった 増田俊也 増田俊也
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(後編) 辞書は民主主義のよりどころ PR by 三省堂
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(前編) 「AI時代」の辞書の役割とは PR by 三省堂
- インタビュー 村山由佳さん「二人キリ」インタビュー 性愛の極北に至ったはみ出し者の純粋さに向き合う PR by 集英社
- 朝日ブックアカデミー 専門外の本を読もう 鈴木哲也・京大学術出版会編集長が語る「学術書の読み方」 PR by 京都大学学術出版会
- 朝日ブックアカデミー 獣医師の仕事に胸が熱く 藤岡陽子さんが語る執筆の舞台裏 「リラの花咲くけものみち」刊行記念トークイベント PR by 光文社
- 朝日ブックアカデミー 内なる読者を大切に 月村了衛さんが語る「作家とはなにか」 「半暮刻」刊行記念トークイベント PR by 双葉社