歴史上の人物をそっくりのロボットとしてよみがえらせたとき、どんな問題が生まれるのか。何をさせてもいいのだろうか。「誰が漱石を甦(よみがえ)らせる権利をもつのか?」と題したシンポジウムが8月、東京都千代田区の二松学舎大であった。
同大と大阪大の石黒浩研究室は、夏目漱石そっくりのロボット「漱石アンドロイド」を2016年に製作。シンポジウムの冒頭では平田オリザさんの作・演出による新作演劇「手紙」が上演された。漱石アンドロイドと、人間の女優が演じる正岡子規による30分ほどの2人芝居。平田さんは「手紙のやりとりを通して、漱石の文体が柔らかくなり、言文一致が完成するまでを描いた」と話す。
シンポジウムで弁護士の福井健策さんは、ロボットの肖像権やロボットが生み出した作品の権利をめぐる議論を紹介。「本人や遺族の名誉、プライバシーを害さないよう留意し、ロボットの行為や発言がフィクションであることを表示すべきだ」と話した。平田さんは「ロボットの表現に、あらかじめ規制をかけるべきではない。例えば漱石の心の闇を描くことも、漱石の評価を高める。遺族に殴られるくらいは表現者として覚悟している」という。
漱石の孫でアンドロイドの声を担当した、学習院大教授の夏目房之介さんは、マンガ批評の際に引用で苦労した経験を持つ。「文化は社会的に共有されるから意味がある。フィクションであることを明示すれば何をやってもいいのではないか。落語をやらせたっていい」。石黒さんは「こういう議論ができたということは、アンドロイドでもっと色々なチャレンジができるということなんだと思う」と締めくくった。(鈴木京一)=朝日新聞2018年9月19日掲載
編集部一押し!
- 売れてる本 齋藤彩「母という呪縛 娘という牢獄」 「教育虐待」愛情と信じた末に 信田さよ子
-
- ニュース 森村誠一さん「偲ぶ会」に約200人参列 「戦友」赤川次郎さん、片岡鶴太郎さんら弔辞 朝日新聞文化部
-
- 朝宮運河のホラーワールド渉猟 呪いとは何か 現代に生きる呪術に迫る3冊 朝宮運河
- 新作映画、もっと楽しむ 映画「陰陽師0」奈緒さんインタビュー 平安時代の女王役「負の感情を『陽』に。自分の道は変えられる」 根津香菜子
- 新作映画、もっと楽しむ 「劇場版ブルーロック –EPISODE 凪-」声優・浦和希さんインタビュー「背中を押してくれるエールが詰まっている」 五月女菜穂
- 中江有里の「開け!本の扉。ときどき野球も」 生きるために、変化を恐れない。迷いが消えた福岡伸一「生物と無生物のあいだ」 中江有里の「開け!野球の扉」 #13 中江有里
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(後編) 辞書は民主主義のよりどころ PR by 三省堂
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(前編) 「AI時代」の辞書の役割とは PR by 三省堂
- インタビュー 村山由佳さん「二人キリ」インタビュー 性愛の極北に至ったはみ出し者の純粋さに向き合う PR by 集英社
- 朝日ブックアカデミー 専門外の本を読もう 鈴木哲也・京大学術出版会編集長が語る「学術書の読み方」 PR by 京都大学学術出版会
- 朝日ブックアカデミー 獣医師の仕事に胸が熱く 藤岡陽子さんが語る執筆の舞台裏 「リラの花咲くけものみち」刊行記念トークイベント PR by 光文社
- 朝日ブックアカデミー 内なる読者を大切に 月村了衛さんが語る「作家とはなにか」 「半暮刻」刊行記念トークイベント PR by 双葉社