日本文化の本質を世界に伝えるには、どうすればいいか。フランス現代哲学の小林康夫氏と中国哲学の中島隆博氏が、エッセーを書き、対話したのが『日本を解き放つ』(東京大学出版会・3456円)だ。
取り上げたのは、日本語・中国語・サンスクリット語を通して〈ことば〉をつかんだ空海。能の〈からだ〉を生み出そうとした世阿弥。近代の衝撃を受け止めた〈こころ〉を描いた夏目漱石。そして、西欧とぶつかり、自らの音楽を作った武満徹らだ。
しかし今、世界と向きあう感覚が薄れ、脳はインターネットなどのバーチャルな世界に常時接続している、と小林氏。「接続を切るためには、なにが必要でしょうね」と中島氏がきくと、「自分のからだを使った表現が起こったときに、はじめて違う感覚が生まれるのでは」と答えている。
「読書は情報を得ることではありません。この本にも、はじめて知るようなことが数多くあるかもしれませんが、そんなものは捨ててください」という中島氏のことばに、勇気づけられる。(石田祐樹)=朝日新聞2019年3月9日掲載
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