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村上たかし「探偵見習いアキオ…」 遠慮がちな人情が苦い幻滅を包み込む

 さえない風体のオッサン2人が探偵として奮闘するコメディーだ。主人公は50を過ぎてから離婚と転職を経験し、幼なじみが営む小さな探偵事務所で見習いとなる。おっとりした人柄で、慣れない仕事に振り回される毎日。やってくる依頼は人探しや素行調査など地味なものばかりだ。

 とはいえ、人が探偵事務所の扉を叩(たた)く以上、そこには必ず依頼者の強い思いがある。その背後にあるドラマが、調査を通じて浮き彫りになる。家出人捜し、浮気調査、猫捜し……調査の結果は、たいていほろ苦い結末を迎える。その人にとってかけがえのない大切な誰かや、思い入れの深いものごとも、調べてみると、幻滅するような事実が明らかになる。シリアスに描いたら相当暗そうな話もあるが、オッサン2人の遠慮がちな人情が作品を優しく包み込み、味わい深い。

 幻滅の苦さの一方で、幻が滅すれば、見えてくるのは素のままの現実だ。主人公自身、私生活の幻滅から逃げずに向き合い、離婚した元妻やその不倫相手と奇妙な同居を続けている。現実の厳しさを見据えながらも、コメディーに踏みとどまる懐の深さ。そんな作風だからこその、しんみりと心に響くものがある。=朝日新聞2020年9月5日掲載