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結木万紀子「地獄の三十路録」 女と男の辛さ醜さ、胸刺す恋愛劇

©結木万紀子/KADOKAWA

 大手企業の宣伝部に勤める椚木泉(くぬぎいずみ)は、男女差別が根強くはびこる中で必死に仕事をしてきた。おかげでアラサーの今に至るまで恋愛には縁なし。一方、大学の同期・八熊(やくま)ありさは、ゆるふわな容姿を武器にイージーモードの人生を歩んでいる(ように見える)。そんな水と油のような二人は、内心お互いのことが嫌い。にもかかわらず、ある事件を機に、椚木は八熊に恋愛指南を乞うことになる。

 かの『スラムダンク』の名セリフのもじりには思わず笑ってしまうが、椚木の焦りとプライドと劣等感の入り交じった迷走ぶりは痛々しい。男の性欲むき出しの視線を気持ち悪いと思う椚木は、ずっとそういう視線を向けられてきたであろう八熊の気持ちを想像したりもする。八熊は八熊で、堅物の椚木が恋愛沼にハマるのを見てみたいと思っている。

 今のところ八熊の腹黒さが際立つが、男嫌いを改めようとする椚木の態度を勘違いしてストーカー化した同僚男子を八熊が強烈な手段で撃退する場面は圧巻。その男にも事情があり、2巻収録分では八熊側の事情も描かれる。男女双方の辛(つら)さ、醜さが胸を刺す恋愛螺旋(らせん)劇。ジェンダーギャップ指数125位の国で「地獄」の正体が何なのか見極めたい。=朝日新聞2024年3月16日掲載