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3人の生と思想を群像劇として描く「社会主義前夜 サン=シモン、オーウェン、フーリエ」 杉田俊介が選ぶ新書2点

『社会主義前夜 サン=シモン、オーウェン、フーリエ』

 中嶋洋平『社会主義前夜 サン=シモン、オーウェン、フーリエ』(ちくま新書・968円)は、三人の「空想的社会主義者」の生と思想を群像劇として描く。しかし「空想的」あるいは「社会主義」という言葉は、後年からのレッテルのようなもので、彼らは現代で言えば「社会企業家」や「社会プランナー」のような存在だった。著者はそう述べる。重要なのは、フランス革命後の混乱と産業革命による不平等化の中で、彼らが貧富や立場の違いを超えた「すべての人びと」の「連帯・協同」を、そして安定した「社会」の新しい秩序を求めたことだ。「前夜」という感覚は、今、異様に生々しい。
★中嶋洋平著 ちくま新書・968円

『新海誠 国民的アニメ作家の誕生』

 土居伸彰『新海誠 国民的アニメ作家の誕生』(集英社新書・990円)は、世界のアニメ史を踏まえつつ、スタジオの集団作業ではなく自主制作的な「個人作家」を出自とする新海の特異性を分析する。動きが少なく、人間よりも風景を優先する新海映画には、インスタグラム的な「承認欲求の高い孤独さ」があり、人間は無力だからこそ現実や風景を輝かせ寿(ことほ)ぐ、という「現実肯定全振り」の姿勢がある。「天気の子」では、それは自己啓発やオカルトに近付きつつある。個人作家がそのまま国民作家になりうる時代。それもまた何かの「前夜」なのかもしれない。
★土居伸彰著 集英社新書・990円=朝日新聞2022年10月29日