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海外移住の動機に迫る「流出する日本人」 高谷幸の新書速報

  1. 『流出する日本人 海外移住の光と影』 大石奈々著 中公新書 924円
  2. 『カレー移民の謎 日本を制覇する「インネパ」』 室橋裕和著 集英社新書 1320円

 近年、日本人の海外流出が注目される。(1)は、長年移民研究に従事してきた著者が、海外移住する日本人について、豊富なデータに基づきその実態を概説した書。海外移住の背景として、日本の低賃金が指摘されるが、人が移動するのは経済的動機からだけではない。著者は、その動機を「自己実現」「生きやすさの模索」「リスク回避」「豊かさの追求」と整理し、移住者の模索と選択、移住後の経験などを詳(つまび)らかにする。特に著者が注目するのは「リスク回避」的移動だ。これは、東日本大震災により顕在化した。同時に震災を契機に人びとのリスク感応性が変わり、災害のみならず日本が抱える長期的課題を「リスク」とみなし、それを回避するための移動が生み出されているという。

 一方、(2)は日本に来る移民の話だ。ナンを出す「インドカレー」屋が、日本各地で馴染(なじ)みの風景になって久しい。その経営に携わっているのは主にネパール人すなわち「カレー移民」である。インド出身者たちが始めた高級料理としての「インドカレー」が、オフィス街の手軽なランチになっていった経緯を辿(たど)るとともに、「カレー移民」の日本への定着や故郷での暮らしを描く。ステレオタイプ的な記述がやや目立つが、見慣れたカレー屋の背後に広がるかれらの世界を映し出す。両書から浮かび上がるのは、(1)の副題である「海外移住の光と影」だ。移動には喜びと苦難がつきまとう。しかしそれは人生そのものでもある。=朝日新聞2024年4月13日掲載