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山嵜大輝「カオスゲーム」 偶然が生むスリル、痛快な主人公 

(C)山嵜大輝/講談社

 フィクションにおいて“偶然”は便利なツールだが、濫用(らんよう)は避けたほうがいい。作者の神の手が露骨に見えてしまっては興醒(きょうざ)めだ。しかし本作では、ありえない偶然がスリルを生み、物語のキーワードにもなっている。

 週刊誌記者・鈴木蘭(らん)は、政治家と暴力団の癒着の証拠をつかむ。が、会社の判断で記事はボツ。しかも当の暴力団に捕まり絶体絶命のピンチ――という場面にふらりと現れた謎の男が暴力団員たちを皆殺しにする。いや、正確には全員が偶然の連鎖で事故死したのだった。男は脱出しようとする彼女にも銃口を向けるが、偶然にも弾詰まりで命拾いする。そして男は「お前 神を見たことがあるだろう」との言葉を残して去っていく……。

 冒頭から息をもつかせぬスピーディーな展開とシャープな画面は初連載とは思えない。さらに特筆すべきは主人公のキャラだ。一本気で義理堅く、巻き添えで殺された仕事仲間に報いるため、死にそうな目に遭っても怯(ひる)まず謎の男を追って突っ走る“ド根性姐(ねえ)さん”ぶりが痛快至極。相棒となる怪しいライターとのボケとツッコミの呼吸もいい。オカルトサスペンス的ストーリーはまだ序章。この先どうなるかはまさに「神のみぞ知る」だ。=朝日新聞2023年1月21日掲載