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避けられない未来に希望を探る「サピエンス減少」 杉田俊介が選ぶ新書2点

『サピエンス減少 縮減する未来の課題を探る』

 世界認識の転回が必須だろう。原俊彦『サピエンス減少 縮減する未来の課題を探る』(岩波新書・968円)は人口学のデータに基づき、今世紀半ばには世界人口の長期減少が不可避になると示す。もはや必要なのは減少を止めることよりも(それを緩やかにする努力は無意味ではないが)、「縮減する社会」が強いる格差や自然破壊などの激甚な社会問題へ対応するシステムの構築だ。アジアの中の日本は少子高齢化の最突端だが、世界中が遅かれ早かれ同じ道を歩む。現実から目を背ければ、人類は爆縮し三〇〇年程で事実上の消滅へ向かう。本書は絶望よりも前向きな「希望」を探る。だがそれには国際的連帯が必須とされ、暗澹(あんたん)たる思いが消えない。
★原俊彦著 岩波新書・968円

『友情を哲学する 七人の哲学者たちの友情観』

 戸谷洋志『友情を哲学する 七人の哲学者たちの友情観』(光文社新書・990円)は、古代ギリシア以来の「伝統的な友情観」(誰にも依存しない自律的な主体どうしの友情)とは「別の友情」の多様な可能性を示すために、哲学者たちの友情論を鮮やかに整理し、人気漫画を引用しながら読者の前に差し出す。現代的な友情は本質的に不安定であり、すぐに傷つき壊れる「シャボン玉」のようだ。ゆえに大切に守られケアされねばならない。なお私はニーチェのジャンプ漫画的な「友=敵」の友情観に魅(ひ)かれた。
★戸谷洋志著 光文社新書・990円=朝日新聞2023年4月1日掲載