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「われら古細菌の末裔」書評 人類の先祖の劇的な歩みに迫る

評者: 小宮山亮磨 / 朝⽇新聞掲載:2023年04月15日
われら古細菌の末裔 微生物から見た生物の進化 (共立スマートセレクション) 著者:二井 一禎 出版社:共立出版 ジャンル:生命科学・生物学

ISBN: 9784320009387
発売⽇: 2023/02/21
サイズ: 19cm/245p

「われら古細菌の末裔」 [著]二井一禎

 私たち人類のご先祖は?
 そう聞かれたら、多くの人は「サルから進化したんだよ」と答えるはず。でもそれは、たった数百万年前の出来事だ。ホヤに近い原始的な脊椎(せきつい)動物の誕生を語る人もいるかもしれないが、それとて5億年前。その前には何があった?
 知られていないのは、太古の生物は小さすぎて、化石に残りにくいからだ。遺伝子解析の進歩で、その謎が解けてきた。本書は急展開する近年の研究をふまえつつ、40億年という長い長い生命の歴史をたどる。
 始まりは1970年代。ひとくくりに「細菌」と呼ばれていた微生物に別の仲間が混じっていると、気づいた研究者がいた。見た目は似ているのに、体を作る成分がまるきり違うのだ。彼はこの仲間を「古細菌」と名付けた。
 とくに2008年に深海の熱水噴出口で見つかった古細菌は、私たち動物や植物など、より複雑な生物にしかないと考えられていた重要な遺伝子を全部持っていた。つまりこれこそ我らがご先祖、らしい。
 その進化は劇的だった。20億年ほど前、遠縁ですらないはずの細菌を体内に取り込み、部品にしてしまった。ミトコンドリアと葉緑体。呼吸と光合成をつかさどる、生命活動の根幹だ。
 ただ超高温だの強酸性だの、ややこしい環境にすむ古細菌は、実験室で育てるのが難しい。研究はDNAの断片が手がかり。姿をおがんだ者はおらず、机上の空論ではと疑う人もいた。
 その壁は20年に日本の研究者が破った。深海の環境を再現する装置を開発し、12年かけて培養に成功。ついに現物の写真を撮ったのだ。丸い細胞から長い触手が伸びているという、誰も想像していなかった姿。この触手で周囲の細菌をからめとり、体に取り込んで我が物とした――そんなシナリオも生まれた。
 胸熱、ではないですか。
 恐竜は面白いけど、微生物も面白いんだよ。子どもにそう伝えたくなる本だ。
    ◇
ふたい・かずよし 1947年生まれ。京都大名誉教授。専門は森林微生物生態学。著書に『マツ枯れは森の感染症』。