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「数学にはこんなマーベラスな役立て方や楽しみ方があるという話をあの人やこの人にディープに聞いてみた本」(全3巻) 理系文系の垣根 越える楽しさ 朝日新聞書評から

評者: 石原安野 / 朝⽇新聞掲載:2023年11月18日
数学にはこんなマーベラスな役立て方や楽しみ方があるという話をあの人やこの人にディープに聞いてみた本 1 著者:数学セミナー編集部 出版社:日本評論社 ジャンル:数学

ISBN: 9784535790056
発売⽇: 2023/09/04
サイズ: 19cm/163p

数学にはこんなマーベラスな役立て方や楽しみ方があるという話をあの人やこの人にディープに聞いてみた本 2 著者:数学セミナー編集部 出版社:日本評論社 ジャンル:数学

ISBN: 9784535790063
発売⽇: 2023/09/04
サイズ: 19cm/175p

数学にはこんなマーベラスな役立て方や楽しみ方があるという話をあの人やこの人にディープに聞いてみた本 3 著者:数学セミナー編集部 出版社:日本評論社 ジャンル:数学

ISBN: 9784535790070
発売⽇: 2023/09/13
サイズ: 19cm/191p

「数学にはこんなマーベラスな役立て方や楽しみ方があるという話をあの人やこの人にディープに聞いてみた本」 [著]数学セミナー編集部

 漫画家に英文学者。そしてサッカー選手からブックデザイナーまで。様々な分野で活躍されている方のインタビュー集である。が、話し手たちの共通点が「何故(なぜ)か数学に心惹(ひ)かれる」人であるというのが新しい。
 登場人物をざっくり二つに分けると、一方は子供の頃から算数も数学も大の苦手。なのに数学が気になりだし、仕事が数学に寄ってきたという人。もう一方は逆に、子供の頃から数学が好きで大学で数学を学ぶほどであったものの、現在は数学とは関係のない分野で活躍をしているという人。
 数学は物の形や考え方に表れることがある。数式を解くことが苦手だからと言って数学がキライになる理由にはならない。1巻目の冒頭、美術家の野老(ところ)朝雄さんと漫画家の高野文子さんのお二人が続けて、数学は全然できません、成績は最低、お手上げでしたと語る。しかし、勘の赴くままに、対称形の美しさに、導かれ生みだされる創作物に数学が映し出される不思議。
 一方、数学が子供の頃から大好きだったというブックデザイナーが名久井直子さん。「自分から手繰り寄せてはみていないけれど、たまに現れ出てくる」のが数学だ、と語る。数学に惹かれるのはその美しさだけが理由ではない。「脚本」を書くことは「数学の証明」を書くこととよく似ていると語るのは「おっさんずラブ」などを手掛けた脚本家の徳尾浩司さん。
 本書を読み進めると、これまで当たり前のように使っていた理系人間と文系人間といった分け方に違和感を抱くようになる。専門家を養成するには確かに特定の学問を集中的に教育したほうが効率は良い。しかし、効率が正解ではないのが学問だ。理系と文系、はたまた芸術との境目はいったいどこにあるのだろう?
 大学の専門課程はさておき、多くの高校には受験を見据えた理系・文系のクラス分けがあり、その影響は中学生の意識にまで入り込む。学びたい学問が定まる前にコースの振り分けをさせているのは効率的に教育をしたい大人だ。
 成績で泳ぐレーンを決められる社会のその先で、本書の登場人物は楽しげにはみ出し、カテゴリーに囚(とら)われない創造性を発揮する。ぜひ、〈理系文系その他問わず〉中高生の皆さんに読んでほしい。学問の垣根を越え自由に行き来する思考の楽しさに満ちているからだ。
 数学科出身、詰将棋作家で英文学者・若島正さんの今の数学に対する思いは? 「勝負とは関係なく、自分のやりたいことをやればいい」。私もそう思う。
    ◇
雑誌「数学セミナー」のインタビュー連載をもとに作られた。小説家、折り紙作家、ゲームプログラマー、書店員、棋士、実業家、住職などに話を聞いている。