1. HOME
  2. ニュース
  3. 司馬遼太郎しのび「第27回菜の花忌シンポ」 今村翔吾さんら「街道をゆく」の魅力語る

司馬遼太郎しのび「第27回菜の花忌シンポ」 今村翔吾さんら「街道をゆく」の魅力語る

 作家・司馬遼太郎の命日にあわせた「第27回菜の花忌シンポジウム」(司馬遼太郎記念財団主催)が12日、東京都内で開かれ1320人が参加した。

 司馬遼太郎賞の贈賞式では、「沈黙の勇者たち ユダヤ人を救ったドイツ市民の戦い」(新潮社)で受賞した筑波大教授・岡典子さんがスピーチをした。

 岡さんは20年にわたり障害者教育史を専門にしてきたが、50代からナチス政権下でユダヤ人を救ったドイツ市民について調べ始めた。周囲からは「今から新しい分野の研究をするなんて」とあきれられたという。岡さん自身は「きっとまた20年がんばれば何とかなると信じていた。どうしてもこのテーマを追い求めてみたいという衝動があった」と振り返った。「相手を信じる。それだけを頼りに潜伏ユダヤ人と救援者たちは命をつなごうとした。一人ではない、という確信こそ、潜伏者の魂を救う最大のものでした」

 つづくシンポジウムでは、「『街道をゆく』――過去から未来へ」というテーマで、国際日本文化研究センター教授の磯田道史さん、作家の今村翔吾さん、エッセイストの岸本葉子さんが語り合った。

 「街道をゆく」は司馬が各地をめぐり、25年にわたって連載した紀行。岸本さんは、司馬の約30年後に「モンゴル紀行」の足取りをたどって旅をした。「司馬さんにとってモンゴルは憧れの地だった。紀行文から、ようやっと行ける心の弾みが伝わってくる」と話した。「司馬さんは身の回り、その場に立ったときに接するすべてから歴史を読み取ろうとしている」

 磯田さんは、「司馬さんは、違うものを違うものとして一個ずつ拾っていった。ご自身でも、『僕の作品でいちばん残っていくのは「街道をゆく」だ』と言っていた。賛成ですね」と魅力を語った。

 今村さんは、いまは誰もが情報を発信するようになったことに触れ、「本物を知らないまま、それぞれが短い街道を、練れていない言葉で発信している。ここらで一回本物に触れるという意味で、ぜひ読んでみてほしい」と呼びかけた。=朝日新聞2024年2月21日掲載