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千街晶之さん注目のミステリー3冊 人のありよう変える、戦争の本質

  • 不夜島(ナイトランド)
  • 1947
  • 奇妙な捕虜

 「君たちはどう生きるか」「ゴジラ-1.0」「窓ぎわのトットちゃん」「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」など、昨年は戦中・戦後の時期を扱った邦画が目立った。日本政界と旧統一教会のつながりが、安倍晋三の祖父でA級戦犯容疑者だった岸信介から始まったように、今の日本のありようの起源を突き詰めようとすれば、どうしてもその時期に遡(さかのぼ)らなければならないだろう。ミステリーの世界でも、このところ戦中・戦後を舞台にした作品が続けて刊行されている。

 荻堂顕『不夜島(ナイトランド)』の背景となるのは、人体のサイボーグ化など、現実よりもさまざまなテクノロジーが発達したパラレルワールドの戦後である。米軍占領下の与那国島では、ありとあらゆるものが密貿易で取引されており、警察官も見て見ぬふりをしている状態だ。台湾出身の密貿易人・武庭純(ウーティンスン)は、謎のアメリカ人ミス・ダウンズから「含光(ポジティビティ)」なる実態不明の何かを入手するよう指示される。

 ハードボイルドとの融合はサイバーパンクSFの王道だが、本書はそのような手法で戦後を描くという極めて野心的な試みだ。全身を義体化した武が、凄惨(せいさん)な殺し合いや謀略をくぐり抜けながら人間臭く自らのアイデンティティを追い求めるさまは、日本本土や米中の思惑に翻弄(ほんろう)される戦後琉球(沖縄)や台湾のありようを反映しているかのようである。

 長浦京『1947』はタイトル通り、壊滅した東京が復興を遂げつつある1947年が背景。戦場で捕虜となった兄を斬首されたイギリスの軍人イアンは、その処刑に関わった者たちを殺害するため来日する。だが、仇(かたき)のうちの二人はCIAに匿(かくま)われているらしい。やがて、イアンはGHQ内部の対立に巻き込まれてゆく。

 イアンは高慢な差別主義者で日本人を見下しているが、GHQやヤクザなど多くの勢力の思惑が入り乱れる中、連合国側の唾棄(だき)すべき謀略や、日本人にも好感を持てる人間がいることを知る。復讐(ふくしゅう)に凝り固まっていたイアンが、善悪も敵味方も割り切れない混沌(こんとん)を思い知らされ、最後に辿(たど)りついた心境が爽快な余韻を残す。

 その1947年にイギリスで刊行されたのがマイケル・ホーム『奇妙な捕虜』だ。著者は『完全殺人事件』などでミステリー史に名をとどめたクリストファー・ブッシュの別名義である。

 1945年3月、イギリス陸軍大尉のベナムは、ドイツ人捕虜のネムリングをロンドンまで移送するよう命じられる。だが、この任務にも、ネムリングという人物にも秘密が隠されていた。果たして誰が誰を欺き、誰が真実を知っているのか。組織の冷徹な論理と個人の想(おも)いが衝突する戦争の本質を、その記憶がまだ生々しい時期に描いた小説である。=朝日新聞2024年2月28日掲載