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かこさとしさん未発表原稿「くらげのパポちゃん」 冒険物語で訴えた戦争の不条理

かこさとしさん(左)と、直筆の「くらげのパポちゃん」の原稿

 原稿は21年のはじめごろ、神奈川県藤沢市にあるかこさんの自宅で書庫を整理していた長女・鈴木万里さん(67)が見つけた。万年筆で、原稿用紙14枚にわたって書かれている。絵は見つかっていないが、場面ごとに数字を振ってページ割りがされていることや、かこさんが残していた紙芝居作品リストに「くらげのパポちゃん」もあったことから、紙芝居にするために作ったと考えられる。

 くらげの「パポちゃん」はある日、桟橋の下で少年と母親の様子を目にする。少年を見送る母親が言う。「富吉がおかげでこんな大きうなって、働きに出かけてくれることをお父うに一言知らせてあげる事が出来たらねえ」。富吉の父親は南の海で戦死し、成長した息子の姿を見ることがかなわなかったのだ。パポちゃんは、富吉のことを知らせてあげようと、広い海のなかで眠る父親を探す冒険に出る。

 原稿の最後に日付が記されており、作品は50~55年の間に、加筆修正を重ねて書かれたことがわかる。かこさんは終戦後、工場労働者が多く住む地域で医療や教育を支援するセツルメント活動に力を注いだ。「くらげのパポちゃん」が書かれたのは、セツルメントに関わり始めた時期と重なる。鈴木さんは、「セツルメントで出会ったなかには、富吉くんと同じように戦争で親を亡くした子がいたと思う。そういう子供たちを重ねて書いたのではないでしょうか」と話す。

 軍国少年だったかこさんは、生前自らを「死に残り」だと話し、戦争への悔恨が消えることはなかった。「『平和は守ろうとしないと守れない。世の中はあっという間にひっくり返ってしまう』と語っていました」

 ロシアのウクライナ侵攻や、イスラエルが攻撃を続けるパレスチナ自治区ガザ地区での惨状をはじめ、世界では衝突が絶えない。「この作品に残酷なシーンはないけれど、深刻なことが書かれている。戦争について知る一歩になればいい」。鈴木さんは絵本にして世に出したいと考えている。(田中瞳子)=朝日新聞2024年4月10日掲載

246話収めた「童話集」、全10巻完結

 昨年10月から順次刊行してきた「かこさとし童話集」全10巻(偕成社)が完結した。

 亡くなる1カ月半前にかこさんが担当編集者に託したもので、20~80代に書いた童話246話が収められている。未発表のものや、雑誌・新聞に掲載しただけで書籍化されていなかった作品が7割以上を占める。

 「動物のおはなし」(1~3巻)、「日本のむかしばなし」(4、5巻)、「生活のなかのおはなし」(6~8巻)、「世界のおはなし」(9、10巻)と分類されており、話の並び順もかこさんの構想通りだ。各巻の「はじめに」では、長女・鈴木万里さんがかこさんにまつわるエピソードをつづっている。