1. HOME
  2. 書評
  3. 「文学者たちの大逆事件と韓国併合」書評 「国民」の境界めぐる国家的暴力

「文学者たちの大逆事件と韓国併合」書評 「国民」の境界めぐる国家的暴力

評者: 中島岳志 / 朝⽇新聞掲載:2011年02月13日
文学者たちの大逆事件と韓国併合 (平凡社新書) 著者:高澤 秀次 出版社:平凡社 ジャンル:小説・文学

ISBN: 9784582855555
発売⽇: 2010/11/01
サイズ: 18cm/234p

文学者たちの大逆事件と韓国併合 [著]高澤秀次

 昨年2010年は、大逆事件と韓国併合から100年。両者が同じ年に起きたことは、偶然でありながら必然でもある。正しい日本人のコードを設定した大逆事件と植民地政策による同化をすすめた韓国併合。両者とも「国民」と「非国民」の境界をめぐる国家的暴力が発動された事件だ。一方は国内への暴力。もう一方は国外への暴力。
 著者は社会学者・大澤真幸氏が戦後日本を分析する際に用いた「理想の時代」「虚構の時代」「不可能性の時代」という区分を、明治期に援用する。著者によると「『国家』の成長に『個人』の成長の物語が重なる幸福な時代」が「理想の時代」。しかし、日露戦争の勝利(成長物語の終焉〈しゅうえん〉)によって共通の理想は溶解し、「虚構の時代」が訪れる。この「没理想」的なリアリズムの時代は、やがて「不可能性の時代」に突入する。その重要な切れ目が大逆事件と韓国併合だ。
 この二つの出来事を隠蔽(いんぺい)し、明治の可能性を語ることは「およそ雲を掴(つか)むような話でしかない」。現代の「不可能性」を内破するためにも、過去へと遡行(そこう)することで前進する必要がある。
 中島岳志(北海道大学准教授)
     *
 平凡社新書・798円