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本にだって雄と雌があります [著]小田雅久仁

[評者]川端裕人(作家)

[掲載]2013年01月13日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■大法螺で包む書物愛と家族愛

 本にも雄と雌がある。それが証拠に書架に本を並べておくと知らぬ間に繁殖しているではないか。「書物がナニして子供をこしらえる」のである。この件に合意する読書家は多いはず。実際、本は増える一方だ……と一定のリアリティーを感じつつニヤニヤ読める大法螺(ぼら)話。
 相性のよい本が隣り合わせたがために生まれた「子」を「幻書」と呼ぶ。放っておくと鳥のように羽ばたいて飛び去ってしまうので蔵書印を押して鎮めなければならないのだが、それはボルネオ島に住む空飛ぶ白象の牙から作られたものだ。かの島には古今東西すべての本が所蔵される「生者は行けぬ叡知(えいち)の殿堂」幻想図書館があるという。
 そのような幻書の蒐集(しゅうしゅう)家、深井與次郎の生涯を、孫の博がさらに自子の恵太郎(つまり與次郎のひ孫)に語り聞かせるのが本作の基本的な構えだ。恵太郎はまだ幼いのに、なぜ曽祖父と幻書のことを伝える必要があるのか。
 書籍愛と家族愛ゆえ、なのである。前者について與次郎は博に言う。「本いうんはな、読めば読むほど知らんことが増えていくんや……わしみたいにここまで来てまうと、もう読むのをやめるわけにいかん。マグロと一緒や……息できんようなって死んでまうんやでェ……字ィ読むんやめたらなあ」
 與次郎は電子書籍など見向きもしないだろうが、ここまで書と向き合った者だけが死後に司書として召されるのが件(くだん)の幻想図書館であり、その存在感はどことなくネットの「クラウド的」でもある。
 一方、家族愛。幻書は期せずして家族の歴史を記録し、予言のごとく未来を語る。博が恵太郎に語る意味はやがて明らかになるのだが、最後まで読み通したら、なにはともあれ本書の扉に戻ってほしい。表題の隣の部分をよく見るといい。あなたが今読み終えた本は……自らの目で確認すべし。
    ◇
新潮社・1890円/おだ・まさくに 74年生まれ。『増大派に告ぐ』で日本ファンタジーノベル大賞。

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