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職業、コピーライター―広告とコピーをめぐる追憶 SINCE1966~1995 [著]小野田隆雄

[評者]楊逸(作家)

[掲載]2013年01月13日

[ジャンル]人文

表紙画像

■時代を読み、心つかむ言葉

 私たちは毎日、数えられないほどの言葉を見聞きしているが、印象に残るものはそう多くない。とりわけ何日も耳にこだまし、心まで響いて、つい突き動かされて消費行動に出てしまうフレーズとなると、なお得難いものだろう。
 広告宣伝用のそのような言葉――キャッチフレーズ、つまり人の心をつかむような魅力的な短い文を考案するコピーライターは、今ではかっこいい人気職業となったが、著者がこの世界に飛び込んだ40余年前は「宣伝文案制作者」と呼ばれていた。
 大学を卒業したばかりの青年は、大手化粧品メーカーに入社して宣伝部の仕事につく。初仕事は、なんと女性の生理用品だった。いくら書くことが好きだとはいえ、「見たこともなかった」ような商品を、「ひと目見て読み切れる長さ、心をキャッチする魅力がある言葉」で書け、と上司に言われて、四苦八苦する。奮闘し、やっとできたのは、「その日は雨でも、わたしは爽やか」だ。
 上出来だった。これを機に著者は「女性専科」のコピーライターの道を歩み始める。昭和の高度経済成長とともに、人々の消費意識も日々変化していく。時代の先を読み、消費をいかにリードしていくか、コピーライターとしての鋭い感受性が問われる。
 新聞、雑誌が主だった時代から、テレビCMへと舞台は移り変わる。作中に引用されたアメリカのコピーライターによる一文――優れたテレビCMのコピーを書くコピーライターに、印刷媒体のコピーを書かせると、ほぼ役に立たず、その逆の例も多い――から、この仕事の難しさがうかがえる。メディアが多様化していくこれからの時代、更に優れた人材が求められることだろう。
 それでも、時代のニーズを先導する商品の魅力を、短いフレーズで語ろうとするなら、何より言葉の魅力を心得ることなのではないか。
    ◇
 バジリコ・1890円/おのだ・たかお 42年生まれ。主なコピー作品に「ゆれる、まなざし」「さびない、ひと」など。

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