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北方領土・竹島・尖閣、これが解決策 [著]岩下明裕

[評者]萱野稔人(津田塾大学教授・哲学)

[掲載]2013年10月06日

[ジャンル]歴史 国際

表紙画像

■「国境とは何か」が見えてくる

 本書の著者はかつて『北方領土問題』(中公新書)で北方領土の「三島返還」を提起し、マスコミや国政をも巻き込んだ議論を引き起こした。その議論は著者の予想を超えてセンセーショナルにあつかわれたが、「三島返還」というアイデアそのものは一つの見識ある解決案として定着したといっていい。その著者が、竹島や尖閣諸島の問題もふくめて、日本の国境画定の問題をめぐって解決策を考察したのが本書である。
 竹島や尖閣の問題について解決策を導きだすために著者が手がかりとするのは、北方領土問題をめぐるこれまでの経験だ。なぜなら、竹島や尖閣をめぐる問題では当事者の一方がそもそも領土問題が存在するということすら認めていないのに対し、北方領土問題においては交渉のための確固とした枠組みが日本とロシアのあいだで共有されているからである。日ロ間には、国境画定にかかわるさまざまな条約や協定が存在するだけでなく、地域の利益や問題解決を支援するための取り組みも蓄積されてきた。そこでの歴史的経験から導かれる著者の解決策は具体的で説得的であり、真剣に検討するに値するものである。
 ただし、本書のなかで個々の解決策より注目されるべきは、その前提となっている国境をめぐる考え方のほうである。これまで日本には、国境問題を解決するための、そしてすでに画定している国境を安定的に管理し、維持していくための統一的なヴィジョンが存在しなかった。もとより日本の国土は海に囲まれているため、そのヴィジョンには海洋秩序をどう形成するか、海をどう利用し、地域の発展に生かしていくか、といった観点が不可欠だ。著者は個々の事例に即しながらそうした統一的なヴィジョンを確立しようとする。日本の国境政策を少しでも前に進めようと思うなら、著者の考察を無視することはできないだろう。
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 朝日新書・819円/いわした・あきひろ 62年生まれ。北海道大学スラブ研究センター教授(国境学)。

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