書評・最新書評

死ぬふりだけでやめとけや——谺雄二詩文集 [著]谺雄二[編]姜信子

[評者]荻上チキ(「シノドス」編集長・評論家)

[掲載]2014年06月01日

[ジャンル]歴史 社会

表紙画像

■忘却と闘争、たたき込む詩の力

 5月、全国ハンセン病療養所入所者協議会会長の神美知宏(こうみちひろ)(80)、ハンセン病国賠訴訟の原告団協議会会長の谺雄二(82)が、相次いで亡くなった。お2人とも、元ハンセン病患者の尊厳回復に尽力してきた中心的人物だ。今、療養所に入所している元患者の平均年齢は80歳を超えた。凄惨(せいさん)な歴史の語り部が少なくなっている現状を痛感する。
 国は長きにわたり、ハンセン病患者への強制隔離政策を続けてきた。子をつくらないようにと断種手術や堕胎を強制し、尊厳を奪い続けた。現在では治療法が確立され、隔離政策の根源「らい予防法」も廃止された。だが、それでハンセン病問題が終わったわけではない。幼少のころから隔離され、療養所で人生の大半を過ごしてきた元患者にとって、社会復帰や名誉回復は容易なことではなかった。
 本書には、詩人である谺の歩みが濃縮されている。詩や小説、評論だけでなく、裁判での意見陳述書や座談会の様子も時系列順に掲載されている。憤りを包み隠さず、容赦なく言葉のハンマーを振り下ろし続けるような谺の作品は、数多くある「ハンセン病文学」の中でも突出して告発的だ。「癒やしとしての文学」「闘わない詩」から批判的に距離をとり、命ある限り叫び続ける「鬼」のごとき姿。《オレたちが この世から 滅べば 汚点(しみ)が消えたと 笑うやつらが いる 笑わせて たまるか 生きてやれ》。表題作の一節だ。差別にあらがう重い言葉は、人権侵害と闘うあらゆる運動を鼓舞するだろう。
 最近では、公務員削減の流れを受けて、全国の療養所の職員が削減されかけ、当事者たちが窮状を訴えた。記憶の風化を防ぐため、証言のアーカイブ化や施設の復元なども進められている。谺の言葉は、読書体験そのものを強烈な記憶としてたたき込む力がある。差別や偏見だけでなく、忘却と闘争する詩の力がここにある。
    ◇
 みすず書房・4104円/こだま・ゆうじ 1932〜2014年。『鬼の顔』『ライは長い旅だから』など。


関連記事

ページトップへ戻る